第15話 デュエル
謁見の間の扉が開かれ中に入ると、30メートル程先にある玉座に座る国王、その隣に王妃、少し間隔を空けて王子と聖女が座っていた。
いつもなら大臣や宰相がいるのだが、姿が見当たらない。
早速、きな臭い雰囲気を感じながらも玉座の手間10メートルまで歩いて進むと、私は片膝を着き、頭を下げた。
「アルネミナ・ドゥーエ・サラビア。表を上げよ」
「はい」
国王のリシャルソンは威厳に満ちた表情を作っているが、口の右端が少し上がり、どうみても不敵な笑みで私を見ていた。
王子で一応の婚約者であるエメルソンも同じような笑みを浮かべ、まさに親子だと感じさせた。
王妃のマーナレスは何も読み取れないまさに王族といった表情で、聖女に関しては誰よりも醜悪な笑み浮かべ、私を蔑んだ瞳で見てくる。
「息災であったか?」
「はい」
「サラビア辺境伯、並びにサラビア辺境伯夫人は大変であるな。余も心を痛めておる」
「身に染みるお言葉、感謝します」
「事態が事態だからな、今後の行事は気にしなくてよい。お前は領地のことを第一に考えよ」
「はい」
「ふむ・・・」
私の両親であるサラビア辺境伯、サラビア辺境伯夫が病に伏せている嘘情報は、あらかじめ手紙で知らせてある。
今後の行事に出なくてもいい、その了承を得ることが今回の目的であり、早々に言葉をもらったため、本来であれば謁見はこれで終了だ。
だが、国王のリシャルソンは、まだ何かを言いたそうにしている。
「さて、謁見はこれで終了なのだが、余にこのような書が届いておる」
国王は1枚の紙を王子であるエメルソンに渡した。
エメルソンは私に近付くと、悪魔を見るような目で見下しながら手紙を投げ捨てるように渡して来た。
本来ならこういった役目は王子ではなく大臣や宰相が行うのだが、誰もいないから仕方がない。
それにしても、悪役令嬢として傍若無人に振る舞ってきたとはいえ、ここまで婚約者に嫌われているとは・・・。
渡された赤い紙を広げると、そこには『デュエル』と書かれていた。
『デュエル』それは、貴族が名誉を守るために申し込む決闘のこと。
しかも、『デュエル』は私から近衞騎士10名に申し込まれたことになっている。
それと、これは赤紙で書かれた『デュエル』。
赤紙が意味するのは、真剣、魔法、何でもありの決闘であり、対象を殺してしまっても罪に問われないというもの。
「ふふふ」
「貴様!!何がおかしい!!」
思わず笑ってしまった私に、親が隣にいる時にのみ自分を大きく見せる子の魔物のように叫ぶエメルソン。
「こんなことせずとも、いくらでも婚約破棄に応じるが?」
「ふん!!口では何とも言える。私のことが恋しいのだろう?はっきり言ってみろ!!」
「ぐっ、ふふ、ふふふ」
私は笑いを堪えるため、両手で口を覆う。
この王子の頭は大丈夫なのだろうか?
好き嫌いの以前に、婚約破棄をするために『デュエル』を仕組んだと認めてしまった。
恐らくは、私が素直に婚約破棄に応じないか、または多額の慰謝料でも要求してくると勘繰り、このようなことを仕組んだのだろう。
「気でも触れたか!?急に笑うとは不気味でしょうがない。まあ、しかしだ。素直に自らの過ちを認め、婚約破棄を呑むのであれば『デュエル』はなかったと私が処理してやろう」
「過ちとは?そこにいる女性と結婚したいのであれば、素直に自ら婚約破棄を申し出れば良い」
「貴様・・・」
このタイミングで国王を見るが、玉座に肩肘を着き、間に入る気はないといった態度だった。
両親である辺境伯と辺境伯夫人が病に伏せている状況で、12歳の小娘を脅せば私の非で婚約破棄ができると踏んだのだろう。
「くくく。実に面白い。その『デュエル』受けてやろう」
「「なっ!!」」
国王と王子が同時に声を上げる。
王妃は少し悲しそうな表情を浮かべ、聖女は口裂け女のように口角を上げてニヤニヤしている。
「近衞ならば、今日も王城にいるのであろう?早速、『デュエル』といこう」
「死にたいらしいな。辺境伯が泣くぞ」
「ご冗談を。近衛ごときに私が負けるとでも?」
「生意気な小娘だ。勝手に死ね」
国王は忌々しそうに私を睨むと、王族らしからぬ台詞を吐き捨てた。
「私のために、そんなことしては駄目ですわ。私が、私が、あなたを諦めれば彼女は助かるのでしょう?」
「おお、君はなんて優しいんだい。けど、何も問題ないよ。全て僕に任せて」
「エメルソン様・・・」
空気を読まずに、いや、この状況で自ら身を引く台詞を言うためには絶好の好機かもしれない。
聖女の本心などまるで分かっていないエメルソンには効き目が抜群で、陶酔しきっている。
それにしても、聖女召喚を公にしていないにも関わらず、なぜこの場に彼女を同席させたのか疑問だったが、今の状況からただ単に聖女が希望したからなのだろう。
婚約者である私に、エメルソンとの仲を見せつけ、奈落に突き落とす、とでも考えていたようだ。
それがしたいがために、召喚されて僅か半年あまりでこの国の言葉を覚えたんだろうな。
好き勝手言われたままでは、流石の私も黙っていられないので、神のマリーに聞いたある言葉を使う。
「保険金(日本語)、殺人(日本語)、4人(日本語)、死刑(日本語)」
「・・・、な、何でお前が知っているーーーーーー!!殺す!!殺す!!」
私の言葉に、聖女は顔を真っ赤にし、鬼の形相で何かを叫び散らす。
言葉の意味が分からないことから、きっと『日本語』で話しているのだろう。
だが、何を話しているか内容は分からなくても、その聖女らしからぬ鬼の顔で醜く叫びちらせば、どうなるか・・・。
「「「・・・」」」
国王、王妃、王子ともに、その変貌ぶりに驚愕し、声も出せないでいる。
「あ・・・、違うの、違うのよ」
「ミ、ミツカ・・・」
「あの女が私を悪く言ったのよ!!だから、早く『デュエル』で殺して!!」
「・・・」
流石のエメルソンも、先程までの陶酔した雰囲気は消え去り、表情が凍りついている。
「その女の本性が分かったところで、『デュエル』といこうか」
聖女の言葉に沈黙を続ける王族に対して、私は高らかにそう言い放ったのだった。
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