第14話 禁忌
冒険者ギルドでの壮絶な光景、現実を目の当たりにし、ウェレイ侯爵は亡命を前向きに考えてくれると言った。
ただし、サラビア辺境伯のように直ぐに帝国へ行くのではなく、あくまでも動き出すのは3年後の『成人の儀式』を見据えてだ。
そこまで気力で話すと、ウェレイ侯爵、侯爵夫人、レナリア、マフレアは、終始無言のまま帰って行った。
そして、翌日、今日はライアスノード王国の国王に謁見する日だ。
自ら謁見を申し込んだとはいえ、多くの命を奪った愚かな者に会うのは気が進まない。
朝食を終え、紅茶を一口飲んでから大きく溜息を吐くと、転生直前に神のマリーと話した時のことを思い出す。
「これから転生する国を、見捨てて下さい」
マリーの表情は先程までの穏やかなものではなく、怒りに満ちており、何者も寄せ付けないオーラが襲ってくる。
Sランク冒険者且つ最強の剣士と言われた私ですら身体中が震え、額からは汗が流れ出す。
「見捨てる!?」
「そうです。ライアスノード王国は、神の領域を穢す禁忌を犯しました。滅んでもらう他、道はありません」
「し、しかし・・・」
戸惑う私の顔を見て、マリーは優しい表情に戻った。
「アルネさんが気にしているのは、罪のない民が魔物の被害に遭うことでしょう?それなら既に解決しているので安心して下さい」
「魔物の被害には遭わないということか?」
「ええ。ライアスノード王国に住む国民約2,000万人に関しては、国が禁忌を犯した時に、既に亡くなっているで」
「既に、な、亡くなってる!?」
頭の中が混乱し、マリーの言うことが理解出来ずにいると、時間をかけて詳しく教えてくれた。
話によると、国が禁忌を行った際、代償に大量の命が必要であったため、主に街に住む平民が犠牲になった。
犠牲にならなかったのは、王族、貴族、それに関わる従者や使用人達。
犠牲なった約2,000万人については、神の力により、既に転生させ別の人生を歩ませているということだった。
ただ、私には一つの疑問が浮かんだ。
「2,000万人も犠牲になったら、国が成り立たないのではないか?他国から責められたりしなかったのか?」
「2,000万人は、今もいるわよ。生きてはいない人間だけどね」
「生きてない?ゾンビの類か!?」
今度もまったく理解できない私に、マリーが教えてくれる。
禁忌が犯された瞬間、神達は2,000万人の複製を作り、街に配置を行った。
私には分からないが、ゲームでいうNPCという存在らしい。
ライアスノード王国は、禁忌に代償があることを知らずに儀式を行い、儀式後は直ぐに神達がNPCを配置したことで命が失われたことに気づいていない。
なぜ、NPCを配置したのか、それは魔物によって国を滅ぼすため。
NPCを配置しなかった場合、ライアスノード王国は、2,000万人が同時に亡くなった理由を悪魔や魔物の所為にして言い逃れをし、他国も未曾有の事態だけにそれを信じていたらしい。
そして、そこまでして行われた禁忌について聞いたところ
「異世界からの聖女、及び勇者の召喚よ」
と、マリーが冷めきった表情で答えてくれた。
「先に話しておくけど、聖女や勇者といった加護はないから。アルネに授ける【神の遣い】とは全然違うもので、特別な力を持たないただの人間よ」
「加護がなく、ただの人間?なら、なぜ禁忌を犯してまで召喚を行なったのだ!?」
「馬鹿だから、かな。帝国に戦争しかけたいが為に、不確かな伝承に惑わされ、召喚をしたのよ」
「な、なんと愚かな・・・。そんなことのために2,000万の命を犠牲にしたのか!!」
ライアスノード王国のあまりにも愚かな行いに、私は無意識に拳を強く握り締める。
「怒るのは当然よ。私達神も、皆怒っているから。本当にバカよね。聖女と呼ばれる女性は回復魔法が少し使えるけど、勇者は本当にただの人間。数年訓練しても、Cランクの魔物1匹倒せないわ」
「そう言えば、勇者は『漫画』に登場していなかった気がするが・・・」
「直ぐに殺されるのよ。役に立たないことが分かって」
禁忌の召喚によって勝手に異世界に呼ばれ、挙句に殺される・・・。
あくまで諸悪の根源はライアスノード王国であって、召喚された者達に罪はないのではないか。
『漫画』の中の聖女も確かに性悪そうだったが、身勝手に召喚された存在であることには変わらない。
「もっともな疑問だけど、聖女は召喚前の地球という星で人を殺してるの。保険金目当てで4人もね。勇者も2人、殺してる」
「ということは、たまたま犯罪者が召喚されたということなのか!?」
「いいえ。私ではないけれど、召喚に気づいた他の神が犯罪者を充てがったの。召喚そのものは止められなかったみたいだけど・・・」
「そうなのか。なら、私としては迷うことはなくなった」
「ふふ。助かるわ。ちゃんと、見捨ててね」
マリーは優しく微笑むが、私には漆黒の闇を纏った笑みにしか感じなかった。
思わず身震いをして現実に戻った。
あの時のマリーを思い出す度に、戦士として情けないが震えが起こる。
それだけ、神として、マリーがライアスノード王国に対する怒りが強いということだ。
「少しゆっくりし過ぎたな。そろそろ行くか」
誰もいない王都の屋敷で1人呟くと、身支度を整え、外に出た。
今日の格好は令嬢が着るドレスではなく、白いタイトめのズボンと、赤を基調とした上着、所謂女性用の騎士服を着用している。
剣こそ【空間収納】に仕舞っているが、気持ちは敵の本城に乗り込むようなものなので、何かあった際に対応できる動きやすい服にした。
屋敷から歩くこと10分、王城に辿り着いた。
辺境伯邸を遥かに凌ぐスケールの王城は、視界に全てを収めることができない程の大きさを誇り、城門だけでも高さ20メートル程はありそうだ。
門番に謁見の旨を伝えると、5分程かけて身分照会が行われたが、それ以外は特に待たされることなく謁見の間に通された。
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