第14話 魔女と林檎なる木
走るたび
「そういえば、アナタは何故そんなにも
森を抜け人が住む街を目指している中で私は巨大な狼の姿をした獣に色んな事を尋ねた。
「それはただ長い年月を過ごしたにすぎないぞ魔の女」
「魔女って呼んでくれた方がまだマシね。それにただ歳を重ねただけで人間の言葉を理解し話せるものなの?うちのハルはまだ私としか会話出来ないみたいよ?」
「魔女よ。そもそも魔物というのは知能がなければ種族同士でしか意思疎通が出来ないのだ」
そう言うと走る速度を落として空を見上げた。空には鳥の群れが飛行していた。
「種族以外で会話できるのは知能があり知識量を蓄えたからだ。そのスライムが会話出来るのは魔女、お前と主従契約しているからだ。いずれそのスライムも歳を重ねれば念話なんぞしなくても自然に話せるだろうさ」
そういうものなのか。この世界の魔物は長寿であれば人間等と意思疎通が出来、交流が可能なのだろう。ならば何故人間は魔物と交流をしようとしなかったのだろうか。
「やっぱり人間は魔物を狩る以外のことはしなかったんだ」
大地を蹴る獣の呻きが耳に入る。
「
「人間は狩り、至福を肥やす。それだけの生き物」
「ほぼ正解だね」
暫く沈黙が続いて私は木々に赤いものを見つけた。
「待ってナツ、アレ果物かも」
急に立ち止まらせたので私とハルが慣性の法則に従って獣の背から転げ落ちる。もし私がハルをしっかりと抱いていなかったら私よりももっと遥か遠くへ投げ飛ばされていたかもしれない。
「その単語は何だ?」
「クダモノのこと?それともナツって名前のこと?」
「ナツの方だ。何故そう名付ける?まだ俺はお前を主人と思っていないぞ」
「名前があった方が狼さんって呼ばずに済むからだよ。良いでしょ?ナツはナツでハルみたいにあるじって呼ばなくて良いんだよ。お前でも、貴様でも、魔女でもいいよ」
「…………それでなんだったか。果実がなんだと?」
「あ、うん。あそこで見た実のなる木が
「ふむ。良いぞ」
指差す方へ私と共に移動する。ナツという名前の感想は答えてくれなかったが、文句を言わないのを肯定とし果物について尋ねる。
「林檎って知ってる?木として成長した後赤い果実を実らせる植物だよ」
「名前は知らん。食べようとも思わんかった」
「主食はやっぱり肉食なの?」
「愚問」
「ふふ、じゃあ今回は私なりの狩りに従ってもらおうかナツ」
「…………む」
ついてきてくれるナツの前で私は林檎によく似た形状の果実を取ろうと木によじ登る。服の裾を切るなど、木屑が繊維を汚すことなどお構いなしに登り近くで【鑑定】する。
その果物には名前がなかった。木登りしてまで採取する実にしてはずっしりと重く皮が硬い。ならばこの果実は私が林檎と命名してもいいわけだ。
「流石丈夫な木だ、んんぬっ、取れない……」
更に身を乗り出して体重をかける。果実は人体の負荷に耐えられずに捥ぎ取れる。手に入れた果実を真下に落とせばハルの体皮が優しくキャッチしてくれる。
「ハル、もう少し我慢してね。あと二個取ったら皆で食べようね」
大きな声で話す。ハルにその声が届いたか分からないがナツの耳がパタリと反応したり、ハル本人もぴょんぴょん跳ねて応えてくれるので近くに映える赤へと移動する。
無事人数分の林檎を落として木から降りる。ハルは待ってたとばかりに林檎を一つ体内に取り込み溶かす。落とした林檎を二つ手に取りナツに渡す。鋭い牙に多少の恐怖を感じるものの警戒していないのを信頼とみて私も片手で林檎の皮に歯を立てた。
皮が硬く従来食べていた皮付き林檎よりも遙かに苦戦するが、前歯で齧りついた時の果肉と汁が想像以上に甘みが強かった。
「うん。美味しい」
「こんな甘味のある食物は初めて食べた」
『あまい、ね』
「魔女、他にも甘い食べ物を知っているのか?」
妙に食い気味なナツにある程度とはと答える。
「しばらくは同行してやろう。俺がいれば脆弱なお前らを守ることも出来るだろう。その代わりに俺の食糧を約束しろ」
そこは主従契約ではないようだ。
「どうしたら主従契約まで約束してくれるのかな?」
「そうだな。我が種族の毛皮でも人間共から奪ってくれればそこまで考えてやろう」
随分と無理難題なクエストを伝えられた気がする。もしかしたらこの獣かぐや姫かもしれない。
「毛皮ねー、御両親の形見を奪った人間がさぞ憎いでしょうね。分かったやるよ。その代わりに毛皮を取り返したら私と主従契約してもらうからね」
魔女はただやりたいことをするだけ。 明晶(あきしょう) @yaritaikotodakesuru2023
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