割引筋肉ババア

れいもんと=くろ〜

第1話 主婦、鍛える。

争奪、慟哭、勝利。

元より、特売日は主婦たちの戦場であり、同時に商店の悩みの種であった。

狂戦婆ババアさーかーはその数、50を優に超え、目玉商品争奪戦に恐れを成した若者は商店から逃げていく。バイトの平均寿命は1時間と10分と持たない。

そんな後継者育成に頭を悩ませる商店街に奇才商店街会長が1人。

「特売なんぞ、やめてしまえばよいじゃろ?」

しかしそれでは、狂戦婆ババアさーかーの暴動が起きてしまう。そんな各店主の意見を遮るように奇才商店街会長は話を続ける。

「最近、若者に人気だそうじゃな、筋肉喫茶、筋肉芸人、筋肉大会ボディービルなどと、筋肉が。」

とどのつまり、マッスル主婦を量産、商店の目玉として若者を呼び込み、商店街を活性化させようという奇才商店街会長の知略。

それはさながら、中華の軍師の如く各店主の眼に映った。



筋達磨すじだるま肉代にくよは今年で還暦を迎えようとしていた。しかし、艶やかな銀髪、華奢で和装がよく似合い、優しい雰囲気。最近の趣味マイブームはマカロン作りと、とても還暦には見えず若々しい女性であった。

そんな彼女にも年相応の楽しみが。

5つになる孫娘が久々に帰省してくるのだ。

何事にも変え難いその喜びは娘の成人式にも勝り、そして帰省のための準備は抜かりなく、生け花や豪華な食事、孫娘への贈り物など用意するものは大変な数となる。

手作りアクセサリーの収入は雀の涙ほどで、年金は猫の額ほどしか無い。

限られた予算で、精一杯のもてなしをしたいと考えながら肉代は商店街を揺蕩っていた。

そんな肉代の目に飛び込む【筋肉マダム大集合!最大99%オフ割引券!商店街主催 筋肉大会!こぞって集まれ!】

99%オフ……?それだけあれば、茶器だって、胡蝶蘭だろうが、ゲーム機だろうが、伊勢海老だろうがなんだって買える。

このチャンスを逃さないような、つまらない女では……

「そんな人生、つまんないわよね。」

彼女はこれから鍛える。

孫娘のために、趣味のために。

そして、楽しい人生のために。

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割引筋肉ババア れいもんと=くろ〜 @Crow_swallow

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