剝き身になったわたし

ウワノソラ。

わたしを躾けてくれた、サチさんに捧ぐ

 サチさん、お久しぶりです。

 元気されてますでしょうか。


 あなたと別れたのはもうずいぶん前になりますが、付き合っていたころに西野カナをよく聴いていたせいか、西野カナの歌を耳にすると自然にあなたのことが思い出されます。


 あのときわたしは、あなたの気持ちを代弁してくれているという西野カナの曲を繰り返し聴くことで、うまくやっていくためのヒントを模索していたような気がします。


 付き合っているとき、サチさんはわたしの全部を欲しがっていましたよね。


 時間、心、言葉、からだ…… 。


 あなたはわたしに、ことを求めていました。

 そして当然のように、くれていました。


 とはいっても、わたしはあなたが求めていることに対して、あんまり上手くはやれませんでしたけどね。


 価値観が違っていたせいでわたしたちはなにかと衝突が多かったですが、あなたとぶつかり合っていたあの瞬間は、なににも代えがたい濃密な時間だったと思います。


 あなたと喧嘩すると、延々と説教や尋問を受けるはめになるのがつねでしたよね。

 それでわたしがどもりがちになると、


「あなたはアスペルガー症候群かもしれないから病院で検査してもらったほうがいい」


 といってきたり、わたしが熱心に取り組んでいた相談援助職の勉強に対して


「あなたには向いていないから、相談援助職に就かないほうがいい」


 と一刀両断してきたりもしましたね…… 。


 わたしを突き刺したそれらの言葉たちは、当然のように心をことごとく抉りました。

 わたしにあった自尊心は、擦り切れて摩耗し、痛々しく爛れるようになりました。


 とはいっても、あなたが吐く批判は芯を食っている指摘ばかりでしたので、悔しいけれどあまたの批判から逃れることはできなかったのです。


 辛くて、憎くて、胸のうちがどす黒く変色していくのを感じながらも、あなたがくれる言葉の意味をわたしは何度もひとり見つめ返すしかありませんでした。


 久しぶりなのに、サチさんを悪者にするような話ばかりでごめんなさい。


 好き勝手いったものの、こうして冷静になって振り返ってみれば、あなたはなんだかんだでやさしかったんだなとも思うんです。


 だってどうでもいいやつに対して、労力や時間を惜しまず叱り続けるなんて馬鹿らしいでしょう。

 その「叱る」のなかには、半分くらい「八つ当たり」も混じっていたような気もしますが、それも含めてサチさんの愛だったんだなと思います。


 最後になりますが、サチさんがくれた言葉のなかにとくに大事にしているものがあるんです。


 それは散々ラインで文字の殴り合いみたいな喧嘩をしたあとに、ぽっとくれた文字でした。


「あなたは話すより、書くことのほうが向いてるんだよ」


 わたしを完膚なきまでに論破するのが趣味だったあなたが書き捨てた言葉を、わたしはお守りみたいにしながらいまも文章を書き続けています。


 あなたはそんなこと、知りもしなかったでしょうけれどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

剝き身になったわたし ウワノソラ。 @uwa_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ