(仮) 蓋世の後継

平沢玲和

第1話 旅立ち

 潮の香りが漂う船の上で、僕は近づいてくるひとつの島を見つめていた。

 円形にそびえ立つその島は豊かな緑が印象的だ。

「まもなく、暗明島に到着致します」

 船内に声が流れ、それまで海を眺めていた客たちもそれぞれ荷物の準備し始めている。かくいう僕も、島への到着に備えて自分の船室に戻った。

 着替えや旅の必需品を入れた大きな鞄を横に携え、僕は部屋のソファに腰かける。

 ひとつ息を入れ直し、僕は父の言葉を思い出していた。

『暗明島にいるといわれている大富豪に会いなさい』

 父はそう言って、僕に暗明島の地図を差し出した。

 暗明島は僕の家からは実に遠く、この船旅は半月の道程であった。

 今日でこの船上生活ともお別れだと思うと、少し寂しい気もする。

 船が徐々に速度を落とし、到着を知らせる鐘が大きく鳴り響いた。

 鞄を肩に斜めがけし、いざ初めての土地に足を踏み入れる。

 実はひとりで旅をするのは初めてで、少し緊張している。それも、父の命も背負っていると思えばより重いものがある。それでも初めての旅というのはなんとも言えない高揚感があり、足取りは決して重くない。


 僕は暗明島にたどり着いたのだ。

 

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(仮) 蓋世の後継 平沢玲和 @reopon_bish

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