第9話 正直に申さば、許さぬ事もない。
「肩だ、肩。手刀のように打ち下ろすがよい。先程のように手加減などいらぬぞ? このように豊満な身体ではな、神と言えど肩が凝って仕方がないのだ。不便なものよ」
弥生から
「この化け物がっ!」
「随分な言い草だな」
「余裕ぶっこいてんじゃねえ! 喰らえ!」
「む?」
バーニアの前方への噴射と足裏のキャタピラーによって機体を後退させたグリフォンが、ヨルムンガルドに向かって背負っていた大口径ガトリングガンを連射した。瞬く間にグリフォンの視界の先が地面から立ち上る粉塵で染まっていく。
機体内部、グリフォンの操縦者であるラカはレーダーを確認し下卑た笑いを浮かべた。
「よっしゃ、反応消えた! 何が神だふざけやがって! ……ん? 奴らのこと忘れてたぜ」
レーダーに映る複数の光点がじわりじわりと移動する様子を見たラカは目指す方向に銃口を向ける。
「さあて、お前らも逝っちまいな!」
「お前がな」
「あ? ……な?! 後ろ?!」
レーダー後方に突如出現した光点と、先程まで嫌と言う程不毛な問答をしていた相手、ヨルムンガルドの声に反応したグリフォンは半身で後方にガトリングガンを連射した。
そこでラカはモニター越しに信じられない光景を目撃する事になる。
くるくる。
くるくる。
連射を続けるガトリングガンより近い位置、眼前で体育座りのように膝を曲げて横に回転しているヨルムンガルドがいた。
「は?」
「よっと」
ギュパァ!
ドッゴオ!!
「ぐぎゃあ!」
ヨルムンガルドが股割りのように一気に足を広げ、その右足がグリフォンに直撃した。気の抜けた掛け声にそぐわない音が二つ、ラカの悲鳴とともに余韻を残しながら、夜に伝播していく。
「むう、しまった。味噌まで逝ったか? 人間共の武器はこそばゆいからな、許せ」
ふわりと着地したヨルムンガルドは右手をひさしのように額に当て、グリフォンが倉庫を次々と突き破っていく
「ま、弥生が
首をコキリ、と鳴らしたヨルムンガルドはゆっくりと順逹のもとに歩き出した。
●
(A級の機動装甲を事も無げにあしらっただと? 俺は夢でも見ているのか……)
震えながら呆けたように動きを止めていた
そのヨルムンガルドが、脅威の存在が。
自分達に向かって歩いてくる。
(……俺とは格が違いすぎる。もし綾佳となつきをターゲットにしているなら……いや待て。ヨルムンガルドは弥生ちゃんが変態した姿だ。理を尽くし、心を籠めればきっと!」
右腕と左腕に抱える綾佳となつきを交互に見ながら、順は満身創痍の身体で闘志を燃やしていく。
(心は折らない。諦めない限り絶対に折れる事はない。悠多君と交わした言葉を嘘にはしない。ハートを燃やせ! 何があっても俺は諦めない!)
ぴたり。
ヨルムンガルドが歩みを止め、順達を見下ろす。
「…………」
「…………」
感情の籠らない視線と相手の動向を探ろうとする視線が、無言で絡み合う。
意を決した順が口火を切ろうとした瞬間、ヨルムンガルドも口を開いた。その様子を見た順が口を閉じ、ごくり、と喉を鳴らす。
何を言わんとしているのか。
必死に順は考える。
そしてそれはヨルムンガルドの言葉なのか。
弥生の言葉なのか。
「正直に申さば、許さぬ事もない」
「は、はい」
「蟹を蹴った時にお前、パンツ見ただろう」
「…………………………はい?」
いつも、心に。 〜じょしじょしだんし、もぶもぶもぶ外伝〜 マクスウェルの仔猫 @majikaru1124
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