第8話 相反する願い

「な、なあ。アンタ、滅茶苦茶強そうだ。俺はまだ手を出してねえ。もう何もする気もねえ。だから見逃しちゃくれませんかね?」


『グリフォン』が機動装甲越しに揉み手をして必死に言い募る。そのさまに、黒髪、オッドアイの少女は腕を組み、2mを越える赤い巨体を見上げた。


「む?構わんが、その蟹は置いていけ」

「だから蟹じゃねえ!」

「一人占めか。いい度胸だ」

らちが明かねえ!」



 ヨルムンガルドと『グリフォン』が掛け合いをしている頃、順はムーンライト・ナイト=ウォーカーへの通信を再開し打開策を探していた。


「管制!『ペルソナ』の装甲を解除するにはどうしたらいい!」


” 通常のレベルA装甲なら装甲のとある一点に強制パージスイッチがあります!『ペルソナ』のデータには見当たりません!それに、その融合率では本人達の意思で装甲を外せるのかも不明です! ”


 ヨルムンガルドと遭遇し、なつきココロとともに座り込んでいた綾佳ヒダリノツバサは静かに順を見上げた。


「綾佳、機動装甲は外せないのか!頼む!頼むよ!」


 必死の形相で問いかける順に、綾佳はゆっくりと胸の中心部を指さした。


「そこなのか?!管制、胸の装甲の中心を調べてくれ!綾佳が教えてくれた!パージのスイッチがあるはずだ!」


” 了解、解析します!…………これ?いや、でもこれはスイッチではなく機動装甲のコア…… ”


「コアがあるのか!どうすればいい!」


” で、でも ”


「でも、何だ!」


” この融合率でコアにダメージが入れば、綾佳さん達の身体が無事に済みません! それなのに何故コアの場所を示しているのか…… ”


「なっ?! そんな馬鹿な!」


 動きを止めて地面に座り込み、静かに見上げてくる綾佳となつきを見た順は綾佳の先程の行動を思い返し、最悪のシナリオに気がついた。


 気が、ついてしまった。


「あ、あ、あ、綾佳。……まさか俺に、お前達の命を奪えとでも言うのか!違うよな?そこがパージスイッチなんだよな?!絶対助ける!絶対助けてやるから正直に言ってくれぇ!!」


 ふる。

 ふるふるふる。


 綾花となつきは首を大きく横に振り、順に向かって両手を合わせた後に大きく両手を広げた。それは、明らかな意思。











 もう、戻れない。

 











 ならば。 










 貴方の手で。











「出来るはずがないだろうっ!やめろ、やめてくれ!やめてくれえええええええええええええ!!!」



 後方から聞こえてきた順の絶叫に、ヨルムンガルドが振り返る。


「何だ、騒がしい」

「うっらあ!」


 ドガァ!!!


 不意を衝き、『グリフォン』がその鉄の拳をヨルムンガルドに叩きつけた。


「やったぜえ!はん、調子に乗りやがって!俺はテメエが隙を見せるのを待ってたんだよ!とっととくたばれ……や?」


 が。


「なああああああっ?!」


 微動だにせずに後頭部で『グリフォン』の拳を受けとめたヨルムンガルドは言い放つ。


「む? そこは凝っておらんぞ、肩にしろ」


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