肌寒い先輩の部屋で、夜が明けるまで遊ぶ。(3)
「あれ、そう言えば私どこで寝ればいいんでしょうか」
以前止むを得ず先輩の家に泊まった時は寝る場所がなくてベットを借りた。
そのため今回はどうすればいいのか先輩に聞く。
すると先輩は待ってましたと言わんばかりの表情で口を開く。
「ふふふ、ご心配なく。これからのために敷布団を買っておいたよ」
「そうなんですか、わざわざありがとうございます」
そこまでしてもらうとは、何だか申し訳ない。
敷布団だって安くはないし、何だったら私がお金を出したほうがいいだろうか。
「それも二つ」
「えっなんで?」
訳がわからなくて自然に口調が崩れる。
「だって一つしか買わなかったら別々の部屋で寝ることになるじゃん」
「ええそんなことで…?」
「っていうか、ベットを買いはしたけど、今日寝るつもりないからね」
「それ本格的に何でベット買ったんですか」
「雰囲気づくり」
なるほど、これがお金持ちか。
「理解はしました。じゃあ今からなにするんです?」
「日和ちゃん本気?女の子二人でパジャマパーティーだよ?」
「私がそんなことの経験があるように見えますか?」
「…ごめん」
割と真剣な表情で謝られる。
それはもっとダメージが入るのでやめてください。
「女の子が二人でお泊まりしたら必ず恋バナしないといけないわけですよ」
「そうなんですか」
「そうなんです」
「そう言われるとちょっと興味湧いてきました。しましょうか恋バナ」
「日和ちゃんが乗り気になるとは思わなかった」
先輩が女の人を好きなのではないかという疑惑がついに解消される日が来たのだ、乗り気にもなるだろう。
「私から質問してもいい?」
「構いませんよ」
ちなみにこの手の話で私は無敵である。
なぜなら…
「じゃあ初恋はどんな人だった?」
「してません」
「…そういうタイプかあ」
「そういうタイプです。それじゃあ先輩の話を聞かせてもらいましょうか」
「いやまだだね、好きなタイプは?」
「考えたこともないですが…」
「今考えて」
「うーん、一緒に居て疲れない人ですかね」
「なにその消極的なの。面白くないな」
面白くないって言われましても…そうだなあ…
「じゃあそうですね…刺激をくれて飽きない人がいいです」
「おー、そうそうそんなのが欲しかったんだよ。今までにそんな人は居なかったの?」
んー、刺激的で飽きない人…
ふと先輩の顔が目に入る。
刺激…いやいや…そんなのではない。
そんなのではないはずだ。
こんなことを考えてドツボにハマるのが最近お決まりになりつつあるし、やめておこう。
「特に居なかった…というか、それほど親密になった人がまず居ませんでした」
「…ごめん」
「その流れさっき見ましたから。」
「ほ、他には何かないの?」
そんなに聞かれても、考えたことがないのだから難しいが。
「そーですねえ…大人っぽい人がいいですね。余裕を持った雰囲気というか、そんな人がいいです。それでいて元気な人であればなお…」
そう言っている間に、再び視線も脳裏も先輩を映し出す。
「結構具体的だね、いいよいいよ。もうないの?」
「あと…あとは、私のことを見ていてくれる人がいいです。」
「あーわかる、それは大事だよね」
…なぜだろうか?先ほどから妙に胸の内が熱い。
「…次私が質問しますね」
「いいよ〜」
「じゃあ先輩の初恋はどんな人でしたか?」
直接質問する訳にはいかないが、私が知りたいことは一つ。
「私はねえ、高校一年生の最初の頃にクラスの委員長を好きになったのが最初かな多分」
「ほう、もっと詳しく」
「私って今も昔もあんまり人と話さないタイプだったからさ、クラスでも孤立しちゃってたんだよ」
そうなのか。
正直言ってかなり意外だ、てっきり先輩は人懐っこい性格なのかと思っていた。
「その委員長とは図書室で知り合ったんだけど、一度関わった後は何かと気に掛けてくれてね。その流れで好きになっちゃった」
「どういうところが好きだったんですか?」
「面倒見がいいところと、ノリがいいところと、あと顔かな。俗だけど」
どうしよ、肝心の性別がわかんない…もう直接聞いちゃうか?
「日和ちゃん、何か聞きたいことあるでしょ?」
…すごいな、何でわかったんだろう。
「日和ちゃんちょっと顔に出やすいからねー。それに顔見なくても、細かいとことを気にする性格だっていうのは分かるからね。例えば…」
先輩は自分の左耳に手を当てて言う。
「何で左耳だけピアスを開けてるのか、とかね」
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