少し暑いゲーセンで、お金をドブに捨てる。(1)
帰り道。
朝に弱い先輩は講義を午後の方に固めて入れてることが多いらしく、その日も一昨日と同じように一緒に帰っていた。
ちなみに私もほとんど毎日五限目が入っている。
「先輩、ゲーセン行きませんか」
「おっ、いいねえゲーセン。行こっか。ひとつ先の駅の前にあったよね」
先輩は当然かのように乗ってくれる。
今まで人を何かに誘ったことがないので少し緊張していたのでその態度が沁みる。
「やった。ありがとうございます」
「いえいえ。にしてもちょっと意外かも、日和ちゃんゲーセンとか騒がしいところあんまり好きじゃなさそうだから」
「騒がしいところも人混みもあんまり好きじゃないですけど、友達とそういう場所で遊ぶのは少し憧れてたんです」
自分から『友達』と言っておいて少し照れる。
まさかこの私に友達と呼べる人ができるとは…と少し感慨深い。
きっと両親や妹に話しても嘘だと思われるだろう。
「なるほどね。じゃあそんな日和ちゃんのために私がゲーセンの完璧な楽しみ方を教えてあげよう」
「それは楽しみです。先輩は良くゲーセン行くんですね」
「いや今日が初めて」
「私の期待を返してください」
◆
「ここがかの有名なゲーセンという場所ですか」
「日和ちゃんなんかとんでもない田舎者みたいになってるよ」
店の中に入った途端、明らかに空気が変わった。
近くのゲーム機一台ですらここまでうるさい音を出しているのに、それが何百台もこの空間の中にあるのだから、そりゃあ耳を塞ぎたくなるほどの怨霊にもなるだろう。
それに加えて少し暑い。
まだ外の気温は十五℃ほどはあるのだが、ゲーセンの中は暖房が入っていた。
もう少し後の時期からでも良かったのではないかと疑問に思う。
「さあ先輩初めはなにをしますか」
「ふっ、なに慌てるでない。最初は店内を物色し、ある程度目星をつけてから回って行くのがゲーセンの楽しみ方だよ」
「先輩…もしかして天才ですか」
「良く言われる」
なぜだか私のテンションも上がっていて、良くわからないノリになってしまったが、先輩がついてきてくれるので良しとしよう。
「それにしてもゲーセンって本当に色々あるんですね。あっ先輩見てくださいよあれ、ちっちゃいパイプ椅子がいっぱいに並べられていますよ。あれ誰が欲しがるんでしょうか」
「え、私ちょっと欲しいんだど…」
「何に使うんですか…?」
「日和ちゃん、このガチャガチャ千円もするんだけど!」
「そんな高いことあります?見間違いじゃ…本当に千円する…絶対これ当たり出ませんよ。…先輩?無言で財布を出すのはやめてください後悔しますよ」
「止めないで日和ちゃん女にはやらないといけない時がある」
「それ言うなら男ですから」
「ああハズレだよくそ」
「言わんこっちゃない」
「先輩先輩、あの太鼓叩いてる男の人の腕どうなってるんですか…?もはや残像しか見えないんですけど」
「私に聞かれても困るよ。だってあれ多分人じゃないし」
「そもそもあれどういうゲームなんです?あのレーン真っ黒にしか見えないんですが。私の目がおかしいのでしょうか」
「安心して、私にもそう見えてるから」
「日和ちゃん、あそこの人見て。めっちゃダンス上手だよ」
「うわー、ダンス上手い人ってカッコいいですよね」
「わかる。私も憧れて一時期やろうとしたもん」
「やろうとしただけですか」
「めんどくさくなっちゃった」
と、楽しく店内を回っていたのだが、途中であることに気づいてしまう。
「どうしましょう先輩、クレーンゲームくらいしかできる気がしません。」
今までゲームに触れてこなかった私にとって、ここにあるゲームはどれも難易度が高すぎた。
「なに、日和ちゃんもしかしてゲーム自体あんまりしたことないの?」
「まるでないですね」
「そんな人いるんだ…」
まさに驚愕、といった目で見られる。
「でもそれをいったらゲーセンに今日初めて来た先輩もなかなかなのでは。わかりませんが」
「それはそうだけど。それじゃあクレーンゲームの辺り回ろっか」
「ありがとうございます、助かります」
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