筋肉の気持ち

くまの香

筋肉の気持ち

「いっでえええええええええ!!!いだいだいいだい!」

「かなり固まってるねぇ しばらくは通ってもらうかな」


俺は今、病院にいる。

腕が全く上がらなくなったからだ。

え?四十肩?俺はまだ20代だ。

原因は半年前に風呂場で転んだ時に腕をついた事が原因らしい。

捻挫も骨折もなかったので普通に生活をしていたら段々と腕が上がらなくなった。

どうもその時に肩の筋肉の一部が切れたらしい。

肩には腕を動かすための筋肉が5つ集まっているそうだ。

そのうちのひとつが切れ、残りの4つがそれを補い頑張っていたらしいが、とうとうギブアップで痛みを訴えてきた。

肩が痛いので右腕を使わなくなったせいで筋肉が萎縮して固まってしまったらしい。


仕事帰りに毎日リハビリに通い始めたが、これがまた物凄く痛い。

ビックリするくらい痛い。

本当に治療なのか?と疑いたくなるくらい痛い。

いや、「痛い」とかそんなカワイイ表現ではない。

「っだぁああああぃいい」だ。


リハビリを受けていると「拷問…」を受けている気持ちになる。

俺はどこかの国に監禁されているのだろうか?

『何でも言いますのでもう許してくださいぃぃぃ』と言いたくなる。


「はい じゃ今日はここまで」

時計を見ると10分も立っていなかったが、俺にとっては10時間の拷問を耐え切った気分だ。


毎日リハビリに通う足は重い。

帰り道はもっと重い。

拷問でボロボロになった身体を引きずりヨレヨレだ。

道端で寝て良いと言われたらそこですぐに寝れるくらい心身共にダメージを食らっている。



「いだいいだいいだい!ですぅ」

「あははは」

いや、先生、アハハじゃないから!

ちょっムリ!腕折れる、やめて、そっちに捻らないで!

レフェリー!ロープロープ! 助けて!


はぁはぁはぁ、今日もやりきったぜ。


そうして三ヶ月もの辛いリハビリを続けていくと、全く上がらなくなっていた腕が半分ほどは上がるようになっていた。

本来は5本の筋肉が行っていた仕事を4本で行うようになり、疲れて投げやりになっていた筋肉達。

しかしあの地獄の拷問を受けているうちに、これほど毎日痛めつけられるなら4人で頑張っていこうぜ、と前向きになってくれたのだろうか?

もしくは…第六の筋肉があの拷問により鍛え上げられて……。


それからひと月後、あとは自分でとリハビリが終了した。

俺よ、俺の右腕よ、よく頑張ったぞ。

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