ギャンブラーの地道な鍛錬

oxygendes

第1話

 取材? 俺はいいけどお店の許可は取ったの?

 そう。なら、俺は構わないよ。

 へえ、月刊パチンコスターさん、いつも、買わせてもらってるよ。パチンカー無頼は面白いよね。あんな事本当はできないけど。

 後ろに回りなよ、そこにいたら隣の台に座れなくなる。俺は打ちながら話すからさ。


 でも、俺なんかでいいの? 「技」とか使わないから、一日の上りは八時間座って、換金で二万か三万くらい。コンスタントにではあるけどね。月で五十万くらいだから、そこらのサラリーマンと変わらないよ。こんな姿勢をずっと続けてそれだけだから、割のいい仕事じゃないな。まあ、好きだからやってるんだけど。


 打ち方? さっきも言ったけど「技」は使わない。お店を出入り禁止になっちゃうからね。釘読みと、いい台では大当たりが出なくても打ち続ける辛抱強さかな。ああ、いい台が空いたらすぐそこへ移動すると言うのもあるな。どれも認められた方法だし、店も毎日変えるから店に嫌われることも無い。


 普通のファンとの違いはいい台が空いたのを見つける早さ位かな。こうやって打ちながらもこの列そして背後の列に目配りするんだ。真後ろの台もね。

 知っているかな? 柔軟性って筋肉の伸びる限界で決まるんだ。立った姿勢から手を前に付く前屈だとすねの後ろの筋肉が突っ張って限界になるだろ。地道にストレッチを続けると筋肉がより伸びるようになる。筋肉の切れたところが再生するときに新たな筋繊維が作られて長さ当たりの数が増え、その分長く伸ばせるようになるんだ。

 だから、台に向かった姿勢のままで列全体が見られるように俺は日々鍛錬を続けたんだ。右に左に少し痛くなるくらいまで首を回してね。少しずつ少しずつ首の回る角度が大きくなっていったよ。そして今では‥‥‥、ほらっ。


 おい、逃げるなよ。視野もあるから百八十度回っている訳ではないよ。どこに行くんだ、おーい‥‥‥。

                   終わり

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