カルミレッリの楽友『è un suprematista muscolare』【KAC2023:筋肉】

汐凪 霖 (しおなぎ ながめ)

コントラバス奏者に筋肉は必要?

 マリオ・ガルヴァーニ。

 彼を知る者は口を揃えて言う。

「ああ、筋肉信者のマリオね」

 馬鹿にしたように言う人もいれば、愛すべき友と思っていることが歴々ありありと分かるように言う人もいて。

 生来の引っ込み思案である ぼくとしては。

 出来るだけ距離を置きたい人物だった。

 黒々とした巻き髪に明るく輝く茶色い瞳、褐色の肌、彫りの深い顔立ちに小柄な体躯と、シチリア人の代表のような青年。八つも年上であるから、まあ、それほど関わることなどないだろうと思っていた。


「おい、お前。それ重たくねぇの?」

 いきなり話しかけられ、驚いて脚が縺れた。反射的に逃げようとしたせいだ。でも、一六分の一の楽器とはいえ、背負っているのはコントラッバッソで。一般的なヴィオロンチェルロと ほぼ同じ大きさだ。名前から分かるように祖先が違うけど。いやまあ、ともかくも、自分より少しばかり大きい楽器を背負って歩いていたわけで。ちょっとしたことで ふらついてしまう。

「おいおい、危ないぞ」

 きみのせいだよ。

 そう思ったけど、支えてもらって転ばずに済んだのは確かなので。

「……ありがと、ガルヴァーニ」

「あれ、おれのこと知ってんだ? 超有名な天才児に覚えてもらってるなんて光栄だなぁ」

 天才児?

「でも、そんな身体じゃ楽器を支えるのも大変だろ。鍛えろよ。筋肉はいいぞ。筋肉こそ、いい演奏のかなめだ!」

 そこから延々と筋肉賛美と筋肉講釈、鍛錬指導の演説が繰り広げられた。

「じゃあな! 良かったら、今度、おれと筋力訓練しような!」

 一方的に話して返事も聞かずに去っていった。

 それが彼との出会い。

 あの陽気さは疲れるが、こちらの反応を意に介さないところは楽だ。

 そう思った。


 それから顔を見れば「腹筋してるか?」とか、「楽器で重量挙げしろよ。絶対、落とせないだろ」とか言ってくる。

 遂に昨日は一緒に懸垂してしまった。


 でも、教授は言ってた。

「筋肉なんぞ普通でいい」

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カルミレッリの楽友『è un suprematista muscolare』【KAC2023:筋肉】 汐凪 霖 (しおなぎ ながめ) @Akiko-Albinoni

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