国軍

「さて、じゃあ俺も……」

 ログアウトしようと準備をすると、拠点の中央の辺りから「バチン」と何かが弾ける音がした。

 フィロが顔を向けると、そこにはスーツを着たままの鈴木が、呆然と立ってキョロキョロしていた。


 フィロが慌てて駆け寄ると、ベルも気づいたようで、フィロに向かって手を振った。

「す……ベルさん?」

「フィロさん、やはり来ていましたか」

「ああ、例の部屋からな。ベルさんはどうしてここに?」

「フィロさんに伝言があって、調整中の機械を一台拝借しています……奴らに気づかれる前に要件だけ伝えますね」

「あ、ああ……」


 深刻な表情のベルに、フィロは黙って頷いた。


「間もなく、この世界に大勢の捜索隊が来ます。VRQ我が社の端末を、予備端末まで全て使って、警察どもが入ってくる予定です。座標はおそらくこの拠点内になるかと……」

「ん? 警察職員は、全員こっちに来れるのか? そういえばベルさんも。前は『時間制限がある』って言ってたなかったか?」

「……特殊な装置を介することで、誰でもアクセスできるようになるようです。今は英語の説明書を片手に、警察によって大量に持ち込まれた装置を端末に取り付けているところです」

「そんなものが……」

「ですがこれは、はっきり言って、欠陥品です。これを介するとこの世界での身体能力は人を少し超える程度まで落ちてしまいますし、武想の発現も出来なくなるようです……その話はまた後ほど。そんな状況なので、フィロさんには、彼らのことを見張って欲しいんです」

「見張るだけで良いのか?」


 ベルは言いにくそうに渋い顔をする。


「もちろん、奴らが怪しい行動をしたら妨害してください。奴らなにをしでかすか……」

「警察官なんだろ? だったら大丈夫じゃないか?」

「だと、良いのですが……いずれにせよフィロさんは、あまり無理はしないで。最悪の場合、フィロさん自身の安全を最優先してくださいね」

「まあ、そうだな。そうさせてもらう」

「では私はこれで。そろそろ準備が整うので、警察が来るはずです」

「……わかった」


 それだけ言うと、ベルはすぐにこの世界からログアウトした。

 フィロは、ひとまず拠点を囲う木製の柵を飛び越え、すぐ外に立っていた背の高い木の枝に腰を下ろす。

 青々と茂る葉の隙間から拠点を覗いていると、少しずつ人が集まり始める。

 彼ら、彼女らは警察服か、迷彩服に身を包みんでいる。

 個性豊かな服装をしているフィロの仲間とはある意味対照的で、フィロからは堅苦しく見えた。


 徐々に集まりだした部隊員は、やがて「邪魔だから」と言いながら、拠点内にある建物を解体していく。

 カード状の何かからチェーンソーを生み出して、まずは見張り台を細切れにする。

 丸太ぐらいの大きさまで崩されたそれらは、現実世界の一般人よりは堅強な身体で、バケツリレーのようにして拠点外へと捨てられていった。

「ったく、こんな原始的な拠点を作りやがって」

「しょうがねえだろ、あいつら原始人並みの装置しか使えてねえんだから!」

「そうそうあの人達、なんの訓練も受けてないし、カードから道具を出すことも出来ないらしいですよ」

「マジかよ! つまり素手で戦ってたの? さすがは『複写機』を使わずにアクセスする原始人だな」

 拠点の外まで廃材を捨てに来た警官達が好き勝手に言うのを、フィロは樹上から黙って聞いていた。


 こんなのが我が国の警察なのか。と、失望すると同時に、まあ彼らも、一人の人間なのだから仕方ないという気持ちにもなる。

 彼らだって陰口の一つや二つは言いたくもなるだろう。そもそも俺達も警察に対して陰口を言っている。

 失望はしたが、そもそも期待をしていなかったからか、それほど心理的な影響はなかった。


 更地に戻された拠点の中心に、数十から百人未満の警官は、等間隔に並んだ。

 指揮官らしき人の指示に従いながら、十人一組に分かれて行動を開始する。

 どうやら彼らは、全員揃って行動するつもりらしい。


 迷彩服の隊員で構成されたチームが先導して道を切り開き、その後方から警察服の部隊が続く。

 統率された動きで行軍を始めた彼らを、フィロは離れた位置から追跡することにした。

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転職先は美少女だった みももも @mimomomo

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