緊張

「国家……?」

「うん。警察とか、自衛隊とか」

 あっさり答えるかぼちゃに、フィロは困惑して言葉を失った。

「俺達は、国を相手に喧嘩を売ってるのか?」

「売ってきたのはむしろあっち。日本中の企業から図々しく技術者を引き抜いて、後進のくせに技術力だけなら私たちに追いついた……って、彼らは主張してる」

「ん? つまり実際のところはそうでもないのか?」

「それは、今日戦ってみれば、はっきりするよね」


 五人程度で集団行動しているうちに、かぼちゃが直接会ったことのある者は一人もいなかった。

 だが、彼らが所属している集団に対して、つまり権力者にありがちな傍若無人さに、どうやらかぼちゃには思うところが無いわけではないらしい。

 かぼちゃの全身から闘気が噴き出したのを肌で感じ、フィロはなんとなくそう理解した。

 

 心象世界での強さは、現実世界の強さとほとんど・・・・関連がない。

 現実世界で細く弱くても、心象世界で一騎当千の強さになることがある。

 また当然、その逆もある。

 かぼちゃやフィロのように、現実世界ではあり得ないほどの身体能力を、心象世界でのみ獲得する者もいる。


 だが、それはあくまでも個人としての強さの話。集団としての練度となるとまた、話が変わる。

 部隊として訓練を積んだ経験や、厳格な上下関係、命令系統などは、そのまま心象世界こちらに持ち込むことができる。

 現に——これはフィロたちは知り得ないことだが——カゲトラが主体で進めている拠点構築はまだ材料集めに四苦八苦しているのに対し、国家側ではすでに拠点を完成させ、周囲の探索や防備の強化を始めていた。

 これこそ、普段から有事に備えて訓練を積んだ人間の強みと言える。


 言うなればかぼちゃやフィロなどは、個人プレーが前提の素人集団で、訓練を積んだ部隊からは子供の遊戯のように思われている。

 面と向かって話し合う機会があっても、教師が子供を相手するように、まともに取り合おうとしない。

 そんな態度が気に食わないし、逆にかぼちゃも彼らのことを『一人では戦えない雑魚』と見下している。

 協力したほうが効率良いのはわかりきっているのだが、それでも互いに手を結べない理由があった。


 かぼちゃは、谷を挟んで向かい側の山を睨み付けたまま、少しずつ重心を落とす。

 獣が狙いを定めるように……

「かぼちゃ先輩? 今はまだ、準備時間で、戦闘禁止のはずじゃ」

「…………そうね。確かに、勝てる戦がルール違反で反則負けになったらもったいないね」

 そう言って、かぼちゃはピリピリとした空気を鞘に収め、フィロは深くため息をついた。

 かぼちゃは視線を真っ直ぐ前に向け直し、フィロを連れて再びゆっくりと走り出した。

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