内紛
「ずいぶんと……広い世界なんだな」
フィロが呟くと、となりでかぼちゃも「うん、そうだね」と首を縦に振る。
真っ白な世界で15分ほど待機していると、全員が一斉に、別の世界に転送された。
フィロ達はこの世界の小高い山の、その頂上にいた。
離れた場所には同じような高さの山がいくつかある。おそらく対戦相手のチームも、そのあたりのどこかに転送されたのだろう。
世界の全容を見渡すことなどできないのだが、それでもここに来たほぼ全員が「広い」と感じていた。
今までの心象世界は、どうしても『閉ざされた世界』という感覚があったのだが、この世界にはそれがない。
青空は高く透き通り、白い雲々の隙間から、宇宙の星々まで見えそうな透明度だった。
少し前に雨でも降ったのだろうか、木々に張り付いた水滴が鮮やかに、日光をキラキラと反射している。
この世界は、五十人以上の複写世界を結合して作られたらしい。
世界同士を繋いだ継ぎ目みたいなものは感じられず、完全に混ざり合っているようだ。
個人の心象世界で感じられた単調さや都合の良さは微塵もなく、気を抜くと現実世界にいると勘違いしてしまいそうなほどだった。
フィロと同じような感想を抱いて呆然としている中心で、カゲトラが指揮を執って人を動かし出す。
数人に測量と地盤固めを任せ、他の数人には周囲の木材の切り出しと整地を命じた。
どうやら、この地点に簡易的な城のようなものを建築しようとしているらしい。
堀や塀を作った程度では、この世界では軽々と飛び越えられてしまうだろう。
何もないよりはマシ。という程度だろうが、初めての戦争で戸惑っている面々はやることを与えられて嬉々として働き出した。
指示を与えられるのをじっと待機しているフィロの、肩が後ろから軽くつつかれた。
「フィロ。私たちは偵察に行こう」
「え? 勝手に持ち場を離れても大丈夫なのか?」
「二人ぐらいいなくなっても大丈夫だよ、うん。それにこういう場合
かぼちゃはそう言って目立たないようにその場を離れ、フィロも頷いてその後を追った。
自転車で全力疾走するぐらいの速さで山を駆け下りながら、二人は息が切れることもなく余裕な様子だ。
身体能力の高い二人にとっては、これぐらい、ジョギングする程度の負荷でしかないのだろう。
ある程度進んだところで、かぼちゃが「そういえば」とフィロに話しかけた。
「フィロは、今回戦う『敵』がどこの誰なのかって、聞いてる?」
「いや、それどころじゃなかったからな」
「そう。じゃあ話しておくね。まず一つ目は、外資系の団体。私たちの会社とは違って、技術研究とかに力を入れてるみたい」
「……ん? 俺達の会社も技術研究はしてるんじゃないのか?」
「もちろん。でもどちらかというと、うちらは実際の客の問題を解決するのが目的。あっちの人と話したことがあるんだけど、なんか『技術オタク』みたいな感じがして……」
話の途中で不意にかぼちゃが手を横に出して立ち止まり、フィロも急ブレーキを踏んだように減速した。
「フィロ、感じる?」
「かぼちゃ先輩? 感じるって何を……」
「見られてる。右手前の山の頂上辺り」
「え……?」
かぼちゃに言われて目線を向けたが、それらしき感覚は微塵も無かった。
目を凝らしても、人の影すら見えないが、かぼちゃは確信を持っているようだった。
「相手は、五人ぐらい。私達が立ち止まったのを見て気配を消したみたいだけど、あれじゃバレバレだよね」
「バレバレ……あ、ああ。そうだな。いや、俺にはわからんが」
「フィロもそのうちわかるようになる。それより、今はまだ準備時間だから襲ってくることはないと思うけど、人数差があるから上手くやれば釣れるかも? 見失った振りをしようか」
そう言ってかぼちゃは、見当違いな方向に視線を向けた。
近くで見るとわざとらしさも感じるが、遠目に見たら標的を見失ったように見えるのだろう。
「かぼちゃ先輩、ちなみにその五人ってのは、例の外資系の?」
「う〜ん……たぶん違うんじゃないかな」
かぼちゃはゆっくりと歩き出しながら、腕を組んで少し悩むような表情をする。
「違うって?」
「うん。あの人達は統制が取れてるし、どちらかというと、現実世界でちゃんとした訓練を受けてるような。だから、もう一つの団体だと思う」
かぼちゃの話を聞いてフィロは、納得がいかないような顔をする。
「なあ、かぼちゃ先輩。そういえば『もう一つの』ってのは、何者なんだ?」
「あ、うん。だからあいつらはもう一つの団体。つまり『国家』だよ」
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