終章 やっぱりマベルは友達が欲しい!

「上手く行ったわね」

「はい!」

 王城からの帰り道、マベルたち三人は昨夜の成果について花を咲かせていた。

 三人の服装はいつもの物に戻っている。

 マベルの帽子も今は大切に仕舞われていた。

「お見事でした」

「いやぁそれほどでも……」

 エミリーにも手放しで褒められ、照れるマベル。

 色々と仕込んだ甲斐があったというものだ。

 アイリスには参加者の目を集め、目的の場所まで誘導する係を。

 マベルは火薬の調合と、その火薬を詰めた筒の設置を。

 エミリーには火薬への点火と箒の受け渡し、そして黒く染められた縄の回収を。

 三人が協力して成した、一つのショーだった。

 特に大変だったのが、点火のタイミングと、箒での飛行だ。

 事前にリハーサルする事など出来ない、一発勝負。

 いつ終わるか分からないマベルとアジェールの会話に合わせての点火。

 そして箒に腰掛けたままで縄の上をバランスを取りながら滑り降りるという、難度の高い魔法きょくげいだった。

 そしてその全てがほぼ完璧にやり遂げられた。

 感激もひとしおである。

 空中飛行には出来るだけ細くて丈夫な縄を使ったが、空に走る一本の黒い線に気付く者も居ただろう。だがそれも、火薬の炸裂音と火花に彩られた魔女の姿の前では霞んでしまう。それも直ぐにエミリーが回収してしまっていたので、誰の記憶にも残っては居なかった。

 その辺りの事に関してアイリスには「魔法を使えば良かったのでは?」という小さな疑問も残って居たが、マベルがそう簡単にこの私に魔法ちからを見せるわけないかと、納得もしていた。

 それに──

「楽しかったですね」

 と笑いかけられれば、そんな疑問も吹き飛ぶというものだ。

「ええ、そうね──」

 そう。

 アイリスも心から楽しんでいたのだから。


          ◇


「たっだいまー!」

「あいよ。お帰り。遅かったじゃないか」

 マベルが元気一杯玄関の戸を開けると、いつもと変わらず窓辺でくつろいでいたノワールが三人を出迎えた。

「二人もご苦労さん。ありがとうね」

「た、大した事はしてないわ」

 ノワールに素直に感謝され照れくさそうにするアイリスと、一礼を返すエミリー。

「それで、どうだったい? 初めての魔女裁判は」

 マベルは荷物を片付けながら、この数日の王城での出来事をノワールに語った。

「──で、それでね! 最後、私よりちっちゃい見た目の魔女さんがパッと現れて、ユーグ先生を連れ去ってっちゃったんだよ! フゥーッ! 禁断の恋? 愛の逃避行って奴かな!?」

 何だか興奮気味のマベルに呆れ顔のノワール。

 エミリーは無表情のままだったが、アイリスの顔には疲労が滲み出ている。

 道中散々この話を振られのだろう。

(あの馬鹿にして、この馬鹿あり、か。ヤレヤレだねぇ全く)

「殿下の協力も取り付けて来たし、大成功じゃない!?」

「そんな話をしてたのね」

「うん。それとアイリスさんにピッタリな人だと思った」

「はあ!? 冗談じゃないわ」

「そう言わずに、一度よく話してみると良いんじゃないかなー」

「はいはい。そんな機会があったらねー(全力で阻止するけど)」

 これでこの話はお仕舞と、アイリスが気のない返事で終わらせる。

 絶対お似合いだと思うんだけどなぁ、とアジェールの本性を垣間見たマベルは、全く取り合う気のないアイリスに不満気だった。

「所でお二人さんはいつまでここに居るんだい? ああ。勘違いしないでおくれよ。邪魔だとか、出て行けだとかそういう意味で聞いてるんじゃないからね」

「……本当かしら」

「もう! ノワールは余計ない事言わないで! アイリスさん、エミリーさん。いつまで居てくれてもいいからね! だって私たち……その……と……と……」

「「……と?」」

「友達だもん……ね!」

 言った!

 初めて──そう、マベルは生まれて初めて、同年代の女の子を友達だと呼んだのだ!

 マベルの頬は緊張と照れでほんのりと赤く染まり、グッと握った両の手はプルプルと小刻みに震えている。

 マベルが求める返答はただ一つ。

 肯定だ。

 圧倒的肯定。消極的肯定。ツンデレ肯定。何でもいい。

(何でもいいから「うん」って言ってええええええええええええええ)

 そんなマベルの祈りも空しくアイリスの反応はそのどれでもなく、目をパチクリとさせて驚いている様子だ。

 そして言われた事を頭で反芻し、理解すると、誰にともなく一つ頷いた。

「いや、友達ではないでしょ」

 まさかの否定。

 しかも照れ隠しの否定しながらも実は……とかでもなく、真顔で否定されていた。

 マベルは顔を真っ赤に染めて、涙目で俯く事しか出来なかった。

 顔から火が出そうっていうのはこういう事かと、マベルの表情を見ながらエミリーは噴き出すのを必死に堪えていた。ノワールなどは隠す気もなく腹を捩らせている。

「私は独立審問官で監視者、貴女は魔女で監視対象。確かに貴女とは仲良くしてるし、まあそうね、個人として好きではあるわ」

 アイリスの言葉にマベルの顔が徐々に上がって行く。

 そしてアイリスはマベルの目をしっかりと見て、言った。


「でも、友達ではないわね」


「アイリスさんの馬鹿あああああああああああああ!」

 バターン! と大きな音を立てて玄関の戸を開けると、マベルは泣きながら何処かへ走って行ってしまった。

「え? あ、ちょっと! マベル!」

 それを追って、アイリスも外へ走り出していく。

 地の利はマベルにあるが、走力持久力においてアイリスには到底及ばない。

 程なくアイリスに捕まるのは確実である。

 主人たちの目がない事を良い事に、珍しくエミリーは腹を抱えて笑っていた。

 村中を元気に駆け回る二人の姿を、村人たちは微笑ましく眺めていた。

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魔女のマベルは自称魔女! はまだない @mayomusou

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