1分マッチョ
武海 進
第1話
僕は昔から体が弱かった。
幼い頃から入退院をずっと繰り返し、ようやく体調が安定して普通の日常生活が送れるようになったのはここ最近の話だ。
そんな僕には一つ夢があった。
それは海外のアクションスターのような、筋肉ムキムキのマッチョマンになることだ。
無い物ねだりなのは自覚があるのだが、人生の殆どをベッドの上で過ごし、筋肉も体力も無い僕にとって、はち切れんばかりの筋肉を持つ肉体は、羨ましくて憧れてしまう。
しかし、入院しないで済む程度には体調が良くなったとはいえ、医者から激しい運動は禁止されているので筋トレをして理想の体を目指すことが出来ない。
だが、どうしても諦めきれない僕はある物を作り出した。
それがこの丸薬、名付けてマッチョ薬である。
入院中の有り余る時間を全て勉強だけに捧げたことで僕は、同年代どころか博士や教授と呼ばれる人々よりも知識を身に付けた。
体を動かして鍛えられないなら、知識を使って筋肉を付けようと思ったのだ。
こうして生まれたのがマッチョ薬なのだが、この薬には二つの欠点がある。
一つ目の弱点は効果時間だ。
永続的にマッチョになれる薬を目指したのだが、どうしても上手くいかずにマッチョ状態が維持出来るのは1分間が限界だった。
きっと筋肉とは本来己を肉体的に追い込んで手に入れるものであり、薬で簡単に筋肉を得ようとした僕への筋肉の神様からの罰なのだろう。
まあ例え1分でも憧れた体型になれるのだから満足するしかない。
それに弱点としてはもう一つの方がある種、問題だ。
二つ目の弱点、それは今まさに起こっている状況だ。
「へ、変態ーーーーー! 誰か助けて!」
日課の散歩中に、階段から足を踏み外した女性を助ける為に僕はマッチョ薬を使った。
女性を受け止め、助けることに成功したのだが、二つ目の弱点のせいで僕はお巡りさんのお世話になりそうになっている。
二つ目の弱点の正体、それは余りに大き過ぎる肉体変化で服が破れてしまうこと。
普段ならちゃんとマッチョ化した体型に合わせた服を着てから薬を飲むが、緊急時やうっかり普段の服を着ている時に薬を飲むとこうなってしまう。
結局監視カメラと一部始終を見ていた人の証言で僕は事なきを得た。
こんなことが今まで数度あり、もうこの薬を使うのは止めようと思ったこともあったが、筋肉ムキムキマッチョマンへの憧れに負け、僕はマッチョ薬をまた飲むのであった。
1分マッチョ 武海 進 @shin_takeumi
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