悪役令嬢マッチョリーナは筋肉ですべてを解決する 【KAC20235】

雨井蛙

悪役令嬢マッチョリーナは筋肉で全てを解決する

「マッチョリーナ、今日限りを持って君との婚約を破棄させてもらう!」

「え……」


 私の十七歳の誕生日パーティー、ライネル王子の声が社交界の場に響いた。

 私は驚きの大きな目をして、ライネル王子を見上げた。高身長、透き通るような瞳、金色のバンクスタイルの髪型、ドレスコードからの上からも分かる逞しい肉体。

 そして、時折見せる優しげな笑みは周囲の女性を虜にするほどの美男子。


 そんな彼に私マッチョリーナ・ロストヴェインは、今、婚約破棄を言い渡された。  

 一八歳になれば結婚を約束していたはずなのに。


「ら、ライネル様。今なんとおっしゃって?」

「すまない、マッチョリーナ。僕は君を愛することはできないんだ」


 ライネル王子の隣に、白のドレスの少女がいた。華奢な体に、つつやかな肌、金髪のロングヘアに、あどけない顔。思わず守ってあげたくなるような幼気な少女。

 リーゼン・アルデオリー、この社交界の場にいる誰もが知っている公爵家ご令嬢。


「君がリーゼンにやって来たことは知っている。通りすぎるときにラリアットをしたり、林檎を握りつぶしてその汁を飲ませてたらしいな」

「それは、スキンシップというやつですわ」

「言い訳をするな」


「やはり、ですか……」


 そう、私はこの展開を知っていましたの。前世の記憶を思い出したのは六歳のとき、ここは乙女ゲーム『フォーチュン・オブ・バミリア』の世界だと気づきました。


 主人公リーゼン・アルデオリーが、バミリア王家の四人のイケメン王子たちの中から誰かと結ばれる乙女ゲー。私はその中の悪役令嬢マッチョリーナ・ロストヴェイン役でした。


 リーゼンからしたら、私は悪役令嬢に見えたでしょう。


 ですが、リーゼンが第一王子ライネルと結ばれる展開はこの乙女ゲーにおいて唯一のバッドエンド。ライネルは次期王となりますが、バカップルぶりに王政はめちゃくちゃ、果てにはエンドロールの最後に『バミリア王国は滅びました』と流れる始末。


 ああ、台パンした記憶が蘇りますわ! 再起動してタイトルロゴと永遠と繰り返されるオープニングムービーを一時間ほど放心状態で見ていた記憶が蘇りますわ!


 転生した私はどうにかしてバミリア王国を存続させようと、リーゼンとライネル王子が結ばれないよう私がライネル王子と婚約をしたつもりでしたが――


 婚約を破棄するですって!? ど、ど、ど、どうしましょう! バミリア王国滅んでしまいますわ~!


「畏まりましたわ。ライネル王子、私はここで失礼しますわ」

「やけに物わかりがいいな。もっと反論するものだと思っていたよ」


「国家存亡の危機が迫っていますので!」



★★★


 私は、それから毎日筋トレをかかしませんでした。ショッキングなことがあると筋トレをしてしまうのは、私の悪い癖。でも、筋トレをしていると、悪いことを忘れ元気がみなぎってきますの。おかげさまで、腹筋はシックスパックに割れ、今日のためにパンプアップまでしました。


 私がダンベル置くと、私の執事、クリスチャンが言う。


「お嬢様。筋トレはほどほどにと、あれほど言ったのに」

「知りませんわ! クリスチャン、私、あの王子を絶対に見返してやりますの!」


 そして今日、リーゼンとライネル王子が結ばれるルートでは、王政が上手くいかなかったライネル王子が全ての責任を私にかけ、『マッチョリーナ・ロストヴェインは魔女だ』と言い、私を魔女裁判にかける日。


 屋敷の扉を叩く大きな音。


「きましたわね」


「マッチョリーナ・ロストヴェインはご在宅か! 私は王宮から来た使者、アグラヴェイン・カストニスである。貴様に魔女の容疑がかかっている。大人しく投降するように!」


 私は屋敷の扉を開け、筋肉ではち切れそうなドレスで恭しく礼をした。


「ごきげんよう、皆様方。それで、どのようなご要件でしょうか?」

「マッチョリーナ・ロストヴェインだな? 貴様に魔女の容疑がかかっている。今すぐ王宮へ連行する」


 私に甲冑で武装した兵士が近寄ったので、手で押し返した。甲冑はへこみ、兵士は数メートル後方へと飛ばされた。


 あれ? あれ? 私、そんなに力いれたつもりありませんでしたのに!


「マッチョリーナ・ロストヴェイン! 貴様、抵抗する気か!」

「ち、違います! 誤解ですわ!」


 私はそう言いながらも、かかってきた兵士にラリアットを食らわせ昏倒させ、ヘッドロックをして締め上げました。


「貴様……!」


 ああ、やってしまいました! やってしまいましたわ~! ちょっと筋トレしすぎましたわ~! でも、正当防衛というやつですわ~!


 アグラヴェイン様は痺れを切らしたようすで、私を捉えようとしました。

 私はすぐに彼の背後に周り、クロスさせた腕を掴み、アグラヴェインの股下に頭をいれ、肩車のように持ち上げて、バックドロップを食らわしました。


 私の執事、クリスチャンが言う。


「おお、それはジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールド。こんなマニアックな技の使い手がこんな身近にいたなんて」

 

 やはり、筋肉。筋肉は全てを解決しますわ~!


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