どっちの肌がイケてる?

ハスノ アカツキ

どっちの肌がイケてる?

 遅筋。マラソンなど持続的な動きに長けている筋肉だ。

 速筋。短距離走など瞬発力に長けている筋肉だ。

 遅筋、速筋どちらも人間以外にも備わっている。

 例えば――。



「お前、ウチのカレ盗っただろ」


 鮪マグロは白身ギャルサークルに乗り込むなりそう言った。


「何の話? てか誰?」


 お前呼ばわりされた、鮃ヒラメが前に出てくる。ほっそりとした白身で、お嬢様然とした雰囲気だ。


「ウチは赤身ギャルサーのマグだ。お前が白米ハクと歩いてるとこ見てんだよ!」

「ああ、ハクくんね。仲良くしてるよぉ。どっかの誰かさんより、私の方が素敵だって言うからぁ遊びに付き合ってあげたんだよぉ」

「は? お前がたぶらかしたんだろ」


 怒りに燃えるマグロの瞳を気にすることなく、ヒラメはクスクスとマグロの巨乳を見ながら笑う。


「てゆーか、イマドキ赤身やってて恥ずかしくないのぉ? 胸の脂肪だけで寄ってくるオトコもいるかもだけどぉ、今は守ってあげたくなるような白身ギャルがモテるんだよ」

「は? 別にモテるために赤身やってんじゃねーよ。赤身じゃないギャルこそ恥知らずだろ」

「えー、もしかして、ギャルが流行った頃の時代しか知らない系? マジおばさんぢゃん! そんなんだから赤身ギャルサーからメンバーがいなくなっちゃうんだよぉ」


 ヒラメは嬉しそうに奥にいる2人に視線をやる。つられてマグロが視線の先を見、目を見開く。


「青鯵アジコに青鯖サバミ? なんで」


 2人とも俯いてしまう。その肌は元の赤身ではなく全身に薄く白メイクを施している。


「マグ、ごめん。私、マグみたいに綺麗な赤身じゃないから……白身なら私でもできるかもって」

「私も……マグごめん。どれだけ頑張っても綺麗な赤身になれなくて、辛くて」


 2人とも悔しそうに泣いた。

 マグロもショックを受けたようだったが、すぐに笑顔を取り戻す。


「いいんだ、2人とも。2人が悪いわけじゃない。好きにやってくれていいんだ。ウチらは離れてても、ずっと仲間だ」

「マグぅ」「気持ちはずっと赤身だよぉ」


 マグロの言葉に2人は余計に泣いてしまう。

 ヒラメはニヤニヤその様子を眺めていた。


「何だかんだ言ってもぉ、アジコもサバミも白身ギャルサーの仲間。やっぱり今は白身の時代よね!」


 ヒラメは嬉しそうに高笑いした。

 マグロの顔が屈辱に歪む。


「待ちな、アンタたち」


 そこに1人の赤身ギャルが入ってきた。


「お前は」「ウソ、どうしてあなたが」


 そこにいた赤身も白身も皆ざわつき始めた。


「いつから時代は白身になったんだい?」

「鮭シャケネさん!」


 綺麗な赤身となったシャケネを見てヒラメは青ざめた。


「綺麗な白身だった姉さんがどうして」

「赤身はね、運動量で決まるわけじゃない」


 シャケネはアジコとサバミを見て、ニカッと笑う。


「私は白身だけど、エビとかカニとかを食べて内側から赤身に変わったんだ。メイクじゃない、赤身を手に入れた。理想のギャルは見てくれじゃない。内側から変わるのが大切なのさ!」

「シャケネさん!」「姉さん!」「素敵……」


 いつしか、その場にいる全員がシャケネを称えていた。その輝く赤身はまさにギャルのお手本だった。



「赤身と白身の違い、分かったか? 鮭みたいに赤い見た目で白身魚に分類されているのもいる。あと、青魚は赤身とか白身とかの分類じゃないんだ。とにかく重要なのは見た目じゃなくて、遅筋と速筋どちらが発達しているかだ」

 はーい、と子どもたちが頷いたところでチャイムが鳴る。

「じゃあ次の体育の時間は体育館だから、遅れずに来いよー」

 黒板に描かれた魚の説明を消していると、後ろから子どもたちの声が聞こえた。

「赤身ギャル、カッコいい!」

「でも白身ギャルも可愛かった!」

 令和の子どもたちがギャルの話題で盛り上がっている。

 作戦は成功だ。

 ギャルの教えを生徒に植え付け、ゆくゆくは教え子全員ギャルに。

 先生の笑いは止まらなかった。

 次の体育はダンスの授業だから、見本としてパラパラを長めに見せよう。

 子どもたちの間で流行るに違いない。

 教え子全員ギャル作戦は、まだ始まったばかりである。



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どっちの肌がイケてる? ハスノ アカツキ @shefiroth7

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