9話、俺は好きなように生きる!!!

 ゆっくり寝たいのにめちゃくちゃ長い話を聞かされた。そして、当然の疑問である天使の話をする行予。

「私はわからない。何故悪意ある神は破壊の世界を作らざるを得なかったのに対抗手段はこちらの世界で生まれるんだろう?」

「それについて俺にはある仮説が生まれている」

 俺は目を瞑ったまま、喋る。

「破壊世界で転送する際のエネルギーは魔法なんだろ?」

「うん」

「そして、個体差で送るための魔力が変わる」

「もしかして……」

 そう、送る際のエネルギー。怪獣を送った後、その同等のエネルギーが破壊世界からこちらの世界へやってくる。それを善意ある神、つまり天使は利用して俺たち人間に送ってるんだと思う。そうして生まれるのが魔法使い。ただ、本来ならきっと王や女王や王子? や王女の行予はすぐには来なかった。徐々に破壊し、最後の詰めでラグナロク……、世界の終末に来る予定だったのかもしれない。本当に予定外のことだったんだろう。そして、その予定外こそが、俺の力を生み出し、ここまで番狂わせの事態に陥った。これを好機と見るべきかはわからない。とにかく、寿命五十年捧げたんだ。これ以上はもう出せるものもない。俺は最強魔法使いとして生きていくだろう。とはいえ目立つつもりはない。魔法も節約していく。いきなり王とバトルするのに魔力なくて戦えませんでしたじゃ話にならない。

「これからは行予の補助に回る。魔力は温存したい」

「うん、それがいいよ。予知夢も宛にならなくなってきたし」

「恐らく予知は同等以下には効果的だ。だが、予想外になると確実に外れる」

 俺はこの先、最低でも大天使の燐輪くらいは撃てる余力を残して戦いに望まなければならない。因みに、一日に撃てるのは、大天使の燐輪と深淵の宝玉を一発ずつ撃つと空になる。ほかの魔法も勿論あるからそれらで調整しながら戦うしかない。そして普通の怪獣であるなら、恐らく行予で相手できる。行予の負担は大きくなるが、頼むしかない。俺はより強い怪獣と戦う準備をする。

「それでいいよ」

 行予は、頷いてくれた。話はこれで終わりだな?

「なんか壮大な話だなぁ……」

 叶はそう言うが、別になんてことはない。怪獣が現れてからずっと人類は対応してきた。俺も粛々と対応するだけだ。

「そろそろ寝るよ、叶。気をつけて帰れ」

「うん、おやすみ、茶葉」

「行予、鍵閉め忘れるなよ?」

「わかった」

 俺はずっと目を瞑っている。疲れているから話してないと意識を保てないだろう。そのまま眠気に身を委ね、眠りに落ちた。

 夢を見た。語り合う夢。俺は爺さんと語り合っていた。

『お主は何故名声を求めない。それは協力を生むぞ?』

『俺は別に協力したくないわけじゃない。ただあえて協力という手を取りたくないだけだ』

『捻くれ者よのぉ』

 爺さんは笑った。そうして急に真面目な顔になって言う。

『それならばその道は苦難の道ぞ。それでも尚進むか?』

『ああ』

『ならば知恵を授けよう。祝詞の全てを頭に入れよ』

 俺は長ったるい文章を延々と聞かされた。ここでは省略する。全く、夢でまで休めない。

『生き延びたいか?』

 祝詞を全て言い終えた後、爺さんは俺にこう言った。

『死にたいとは思わないな』

 俺はちゃんと充実した生活は送れていた。そういう陰キャなんだ。人と関わるのはあまり得意ではないだけ。

『違うな、お前さんは人と関わるのは得意だ』

『そんな事はない』

『お前さんは自分から人に関わるのが苦手なだけで、実際は何かあれば誰かの手助けをしたり、誰かに語りかけたりしている』

『……身内だけだ』

『そうか……、ふふふふふふ、ははははははははは!』

 爺さんは大爆笑していた。ゲラゲラと笑い転げて床を叩きまくっている。

『何がそんなにおかしい』

『もう、あの二人は身内か。両手に花だな!』

『ち、ちっげぇよ! ぶっとばすぞ! ジジイ!』

 爺さんは笑い転げて大爆笑し続けた。そうして涙を流しながら爆笑した後、こう言った。

『頑張りなさい』

『わかってる』

 すうっと爺さんが透明になっていく。俺は最後に聞いた。

『なぁ、終末時計が反転したら破壊世界は消えると聞いた。行予は……、大丈夫かな?』

『お主が死んだ後のことまで心配する必要はない』

 ピシャリと言い放たれ、俺はむぅと口を尖らせた。それでも保証が欲しかった。俺は消えゆく爺さんを見つめる。

『そもそも終末時計が反転するということは、溜まっていたエネルギーがなくなるということだ。こちらに存在する無限のエネルギーがなくなるわけではない。だからこちらにいるあの子は寿命まで生きる。これが答えだ。勿論殺されなければな』

 なるほど、と納得した。それなら大丈夫だ。行予には叶もついている。ならば、俺は使命を全うし、終末時計が反転する日まで、秘匿の最強魔法使いとして戦い続けるのみだ。

『次会う時はお主が死んだ時かな?』

『縁起の悪いこと言うなよ』

 そうして爺さんは消えた。俺は夢で目を閉じる。

 目を開くと現実だった。朝。魔力は完全に回復していた。祝詞も頭に入ってる。これから忙しくなるな。

「おはよう、茶葉」

 リビングに行くと行予がいた。

「おはよう」

 俺は朝ごはんを作り二人で食べる。そろそろ食事の作り方を行予に覚えてもらいたいな。

「行ってくるよ」

「行ってらっしゃい」

 俺は行予を家に置いて学校へ行く。いつもの日常がやってきた。さぁ、予知の時間だ。

 今日は怪獣も怪獣はやってくる。もう、行予の存在はあちらにも驚異になってるはず。仮面は渡してあるから、任せるように朝言った。俺はサポートしつつ、怪獣を倒す予定。

「おはよう、冬雨君」

 叶が教室で挨拶してくる。

「おはよう、美堂さん」

 俺は堅苦しい挨拶をしてドア付近の席で丸くなる。他の誰とも接しない世界で、俺は遠く窓を見る。

 この世界を守れるかどうかは俺にかかっている。俺はこの困難な道を選んだ。これからも選び続ける。叶と行予以外に正体を知られずに、やりきってみせる。

 そう誓い、予知の時間まで勉強する。勉強内容は予知も魔法も効かないから困る。何だこの不便さ! ははは!

 俺はきっとこの先もちゃんと秘匿し続け怪獣を倒し続け、日常を守るだろう。

 長生きできなくったって、名前が残らなくたっていい。俺は俺の好きなように生きる! それが俺の生き方だ!!!

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秘匿の現代最強魔法使い みちづきシモン @simon1987

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