8話、終末時計。

 私は話す。この世界と破壊の世界の事を。破壊の世界はこちらの世界を終わらせる終末時計を進めるために存在する。そして、その終末時計は、あと十年以内に砂を落とし終える。その後は人類のいなくなった、新たな世界が広がるのだ。だが人類にも生き残る術がある。それが対抗手段である魔法使いの存在。

 そもそも破壊の世界は、この世界の神様が人間を滅ぼすために生んだ世界。そして、魔法使いとは神様の決定に憐れんだ天使たちがせめてもの救いとして直接力を与えた存在なんだ。

 だから確実に神様の意志は覆らない。終末時計を反転させるのは不可能に見えた。だが、予言では最期の魔法使いが破壊の世界の王を倒し、終末時計は反転する「かも」しれないらしい。不確定未来というやつだ。予言は完璧ではない。そして、終末時計がもし「反転」してしまったら……。

 破壊世界は消滅し、破壊世界の生き物はもう生まれなくなりこの世界に平和が訪れると言われている。

 だから私たち怪獣は、こちらの世界を破壊させに兵隊を送るのだ。一度に一気に送らないのは転送にある程度大きな魔力を使うため。王が転送をする役割をしている。そして女王は王女である私や私の弟である王子の生活を守るためにいた。

 きっと今、王、お父さんは転送にかかりきりのはず。まさかお母さん自らやってくるとは思わなかったが。

「そこまで聞いて疑問がある。強いやつが最初来て全部先に壊してしまえばいいんじゃないのか?」

「それは必ず対抗手段が生まれるのが抜け落ちている」

「ならお前らに勝ち目はないんじゃないのか?」

「例えば、怪獣が一体やってきて、無傷で済んでる?」

 茶葉はうーんと唸る。恐らく無傷では済まない。色んなものが壊され、生活を追われた人々が死に至る。

 そうやって少しずつ壊れていき、十年以内に全て壊れる予定だったのだ。

 そして、私たちは破壊世界で穏やかな生活を送るはずだった。私は破壊世界で破壊衝動に目覚めてしまい、追われる身になってしまったが。

 故に私はこの世界で生きるしかなくなり……、その話はもうしなくてもいいだろう?

「神様はどうしてこの世界を破壊することにしたの?」

 叶が聞いてくる。私はひとつの答えを示した。

「この国では神様は八百万の神と呼ばれているよね? それはおよそ正しい。死んだ人間は神様になるんだよ」

「……? それなら尚のこと破壊するのはおかしいよ」

 こう言う叶に目を瞑ったままの茶葉が口を挟む。

「悪意ある神と善意ある神。それぞれの意思が衝突した結果がこれだな? そして、善意ある神を俺は天使と呼んでいる」

「そういうことかぁ……」

 何兆もの悪意ある神が作り出した世界。それが破壊世界。魂の力を元にして作られたこちらの世界を破壊するためだけの破壊世界。

「そうなるとまどろっこしいと思うけどな? なんで悪意ある神様はそのままこちらに怪獣を生み出さない?」

「出来ないからだと思う。世界の外側に作ることしか出来なかったんだ。こちらの世界では物理法則などがあるんでしょう?」

 そして、私の世界、破壊世界はずっと前からある。やっとこちらの世界に干渉できるだけのエネルギーを破壊世界が貯めきったのだ。そうして破壊しにこちらにやってきたのだ。そして、私たちの世界でニューバイブルという祝詞と呼ばれるものが生まれた。それは私たちには理解できなかったが、私たちの教典となった。私にはわからないが、お母さんが最期に言っていた意味を私なりに考えた。茶葉が、最期の魔法使いであると。

「めんどくせーけど、それしか楽な道がなかったからな」

「茶葉はどうして、あの時急に魔力が増えたの?」

「所謂天使ってやつに話をされた。交渉されたんだ。逃げるか、寿命五十年捧げるか」

「え?!」

 叶がとても驚き、とても悲しそうな顔をした。

「茶葉は、寿命五十年捧げたんだね」

「ああ」

「なんで……!!! 逃げればよかったんじゃん!」

 叶は、泣いて怒っていた。当然だ。茶葉は長生きできない事は確定してしまっている。

「俺は別に……、ぐはっ!」

 叶が涙を流しながら思いっきり茶葉の腹を殴った。

「馬鹿馬鹿馬鹿!!!」

「ごめん……、叶」

「茶葉の選択は間違ってない」

 もし茶葉が寿命を捧げなければ、お母さんによる大破壊が続いた。勿論対抗手段は生まれるだろうけど間に合うかわからない。何人も死んだはず。そして、お母さんの狙いが私だったのだから、私は確実に殺されていた。だから言う。

「ありがとう、茶葉」

「ああ」

 叶はそっぽを向いて泣いていた。私は抱きしめた。

「私はもう、皆を抱きしめられる」

「……!!?」

 叶の嗚咽が止まった。暫くしてこちらに振り返る。

「………………」

 叶は何も言わず私を抱きしめた。私も抱きしめ返す。温もりがとても温かい。

「話は終わりか?」

「まだあるよ」

 私がそう言うと目を瞑ったまま茶葉はため息をついた。

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