7話、秘匿の最強魔法使い。

 なんなんだこれは? 俺は、俺たちは二体の怪獣を倒してそのまま帰って日常を送るはずだった。なのに、行予のやつが変なこと言って、しかも本当にもう一体、訳のわからない女王とやらが現れた。俺にはもう魔力がない。どうしたらいい! どうしたら……。

『ここが分岐点です。冬雨茶葉』

 その声は確かに聞こえた。誰の声かわからなかったが、勘を働かせると誰の声かはわかった気がした。

『逃げるか寿命を五十年捧げるか選択しなさい』

『寿命を五十年捧げる!!!』

 俺は迷いなく言った。

『迷わないのですね……』

『もし逃げたら俺は助かるかもな。だが、女王とやらの対抗手段が生まれるまで、破壊し尽くされる。俺の魔力が回復しても勝てないんだろ?』

『状況判断が早いというわけですね。それでも五十年、あなたが生きる道が……』

『俺は別に長生きしたくない』

『そうですか』

 その人、いや、人じゃないかもしれない奴の返答を待った。ぐだぐだしてると本当に全滅する。

 今にも行予がやられそうだった。あいつを守る約束をしたのに情けない。俺は約束をちゃんと守りたい。あいつだって……生きてるんだ!!!

『答えはわかりました。力を授けます。あなたが最期の魔法使いとなりますように願っています』

 次の瞬間予知が視えた。何をすべきか一瞬で視えた。そして、俺の体に膨大な魔力が宿った。

「なんですか? その魔力量は……」

 今度は女王が焦る番だ。俺は行予の方を見た。

「立てるか? 行予!」

「しっかりして! 行予ちゃん!」

「大丈夫……、まだ戦える……」

 行予はフラフラしながら立ち上がった。

「大丈夫だ。お前は俺の仲間。俺がお前を守る」

 女王は俺を睨みつけた。顔立ちは大破の頃に似ている。だが親子でも殺しにくるヤツらだ。そんなものは関係ない。

「お前は俺が倒す」

 俺はカッコつけて女王を指さしながら宣言する。

「なんかダサいよ茶葉」

「うるさいな! 叶!」

「あはは、いつも通りで安心した」

 叶がからかってくる。そんな当たり前の空気に女王はイライラしたのか、光線を放つ。

 俺はバリアで防ぐ。光線の火力を上げていく女王。だが俺は防ぎきった。

「ハァハァ……、そんな馬鹿な!」

 俺は両手を広げ魔力を込めた。

「大天使の掌」

 光の掌が現れ女王を掴み身動きを取れなくする。

「さて、行予。頼みがある。ありったけの光線をこの大天使の掌に打ち続けて、女王の動きを止めて欲しい」

「……! わかった! 任せて!」

「ふざけるな! やめなさい!」

 身動きを取れない女王は光線も放てない。だが脱出しようとすれば出来てしまう。それを行予に止めてもらう。

 行予はありったけの光線を放つ。俺は呪文を唱え始めた。大天使の掌は魔法だ。トドメを指すには魔術がいる。俺は唱えた。

「ああ、何故神は我々迷える子羊を見放すのか。例え神から捨てられた我らにも生き延びる希望があるならば、それを掴みたいと願う。幾許もの儚い糸を辿りそこにたどり着いたものは限りなく少ない。故にその者に頼る無力な私を許してほしい。神に逆らい、神の絶滅への調べに逆らう我らは最大の力をもってして災厄に立ち向かう。その時会えたあなた様に我らは最大の敬意を払う。さようなら神の唱えた終わりの輪舞曲よ。始まりの歌声はすぐそこにある。それは闇であり、始まりを告げる朝日を見るための闇である。いでよ!!! 深淵の宝玉!!!」

「ニューバイブル最終章!? まさかあなたは予言の最期の魔法使いいいいいいいい……」

 女王は言葉を遺し闇の宝玉に包まれ消滅していく。

 行予はポカンとしながら、女王の、母親の最期を見送る。

「さよなら、お母さん」

 そして、女王は完全に闇に吸い込まれ跡形もなくなった。

「やったか……、はぁはぁ、くそっ!」

 今度ももう魔力がなくなりかけてる。毎回最大火力の魔法というか魔術を使わされる……。勘弁してくれ。

「やったね! 茶葉!」

 俺は首を横に振る。くそ……、くそ!

「凄いな君は」

 やはり来たか。こうなることは、視えていた。

 魔法使い事務所の……、あの男だ。

「信じられない」

 鯉川とかいったか? 女魔法使いも来ている。

「仮面の君、そして、もう一人は大和大破さんかな? あと一人の仮面の子はわからないが……」

 行予が前に出て手を両手に広げる。これ以上踏み込むなと言うサインだ。

「悪いことは言わない。魔法使い事務所に入って欲しい。君たちにしかできない仕事が……」

「ふざけるな! 約束を忘れたか? あんたらは条件を飲んだはずだ!」

「ならせめて名を教えて欲しい。最強の魔法使いとしてその名を馳せてほしい」

「俺は目立ちたくないんだよ……」

 その俺に鯉川という女性が声をかけた。

「地位も名声もいらないというの?」

「そうだ」

 俺の答えに大層驚いた彼女は、少し考えて言った。

「先輩ここまで言うなら無理に問う方が私たちにとってマイナスになります」

 先輩と呼ばれた男の方の魔法使いが頷く。

「わかった。それならこういうのはどうだろう。仮面の君は……、秘匿の最強魔法使い。そう呼ばせてもらう」

「好きにしてくれ」

 ふぅーと長いため息をついた俺を見て、彼らは退散していった。

 俺たちは俺の家に戻った。

 何故か行予が、叶にもついてくるように言った。叶が俺の家にあがる。

「お邪魔しまーす」

 俺は階段をゆっくりあがり、俺の部屋でベッドに横になった。

「大丈夫? 茶葉……」

「大丈夫に見えるか?」

「よく頑張ったよ茶葉。凄い!」

 叶が心配し、行予が俺を褒めると、俺は目を瞑った。

「茶葉、まだ寝ないでね。話があるの」

 行予が言う。俺は今はもう予知を使えないから行予が何を言うのかわからない。

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