第4話 有隣堂しか知らない世界
ブッコローと何年か前の岡﨑は顔を見合わせた。
「ふふ。まぁ何年か後の私がそう言っているんだから、そうなんでしょうね。」
どことなく他人事のように、でも少し嬉しそうに岡﨑は笑った。
「でも、明日実力で勝つかもしれませんし。まぁ頑張ってみます。」
窓の外からは朝焼けが見えた。何年か前の岡﨑はいつも見る、あの笑顔で笑っていた。
「んでこのザキさんどうすっかなぁ〜。てか、どうやって元の世界に戻るんだ?」
「それはわからないです・・・。あ、もしかしたら、もうすぐ早番の社員さんが出勤してくるかも。」
「マジか、とりあえずこっそり有隣堂の外に出なきゃ。」
「あ、あれ使います?業務用のエレベーター。」
「うわ、出た!」
ブッコローは岡﨑をなんとか引きずり、業務用エレベーターに乗せた。
「何年か前のザキさん、なんだかんだ楽しかったわ!マジでA4用紙のサイズは覚えておいた方がいいっスよ!じゃ!」
外扉と内扉を羽が挟まらないように慎重に閉め、1階までのボタンを押すとガンッという衝撃がエレベーター全体に走る。
「ほんっとコレ、嫌だなぁ〜。」
再びガンッという衝撃で1階まで到着し、岡﨑を嘴でズルズルと引きずりながら有隣堂の外まで出ることができた。
「ザキさん、起きてよ〜。どうすんだよぉ〜。」
「う〜ん、キキちゃん、もうちょっと寝かせて・・・。」
ブッコローが岡﨑をズルズルと引きずっていると、ポケットから〝レトロピンク〟と書いてあるインクのボトルが出てきた。
「あ、これだ!ザキさん、よくわかんないけど飲んでみよ!戻れたらラッキーだと思ってさ!」
ブッコローは自分の羽に少しインクを出し、残りは雑に岡﨑の口へ流し込んだ。雑にインクを流し込まれたせいで、岡﨑の口からインクが血のように流れていた。
気づいたら2人はインクを買ったブースの横に用意された椅子に座っていた。ブースに座っていたはずのトリは居なくなっていた。
「ザキさん、やっぱあのインクのせいだったんだよォ〜!信じられないんだけどこんなことってある!?これYouTubeのネタにするべき?てかヤバ、吐血したみたいになってんじゃん。」
「えぇ〜。えへへ。」
岡﨑はハンカチで口元のインクを拭いながらも満足そうに笑っていた。ブッコローは未だ興奮気味で、バタバタと羽ばたいていている。岡﨑は自分の隣にブッコローがいることに少し安心した。
「あ、そういえばお目当のインク・・・。まだ買えてないです。」
「そうだったっけ?ま、行ってみますか!」
2人はまた人の波の中へ消えていった。
数日後、2人はいつものスタジオで〝有隣堂しか知らない世界〟の撮影をしていた。
「文房具王になり損ねた女、有隣堂文房具バイヤー岡﨑弘子さんです!」
「うふふ」
「ザキさん何笑ってんすか」
「いや、楽しいな、と思って。」
文房具王に、私はなります!〜岡﨑と岡﨑〜 お茶の間のデンキウナギ犬 @keinueno
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