ほんとに俺のこと好きなの?

平 遊

彼女の答えは?

 彼女の指が、俺の背筋をスルリとなぞる。きっと今、彼女は蕩けそうな顔をしているに違いない。


「はぁ…スキ♡」


 彼女は俺がグッスリ眠っていると思っているのか、腰やケツ、太腿にまで手を這わす。俺がもし仰向けに寝ていたなら、胸や腹を撫でくり回していただろう。


 俺の彼女は筋肉フェチ。

 高校の水泳大会で、俺が選手として遠征した他校の生徒だった彼女は、俺の体に一目惚れをしたのだと、告白してきた。

 彼女はメチャクチャ美人で俺のストライクゾーンのど真ん中だったから、もちろん二つ返事でOKしたさ。

 ちょっとだけ、告白の言葉にひっかかりはしたけれども。


 以降付き合いは続いている。

 少しでも筋肉が落ちるとすぐに彼女の機嫌が悪くなるから、水泳部を引退した今でも俺は、空いた時間には必ず泳ぎに行っている。社会人になると、なかなか難しいんだけどな。


「んっ?」


 彼女の手が脇腹に触れたとたん。

 その手がピタリと止まり、不機嫌そうな声が聞こえた。


 やばい。

 今週は仕事が忙しくて、泳ぎに行く時間がなかったんだ。同僚と飲みにも行ったし…


 寝たふりを決め込もうとした俺の腹が、彼女の細い指に摘まれ…キュッと捻られた。


「いってぇっ!」


 思わず口から悲鳴が漏れる。


「しんいち、コレなに?」

「いてっ!離せっ!」

「こーれっ!なぁにっ?!」

「わかったから、ごめんてっ!来週頑張るっ!」


 ようやく彼女の指から解放された可哀想な我が脇腹を、俺は掌でそっと押さえた。


 そんなに言われるほど、無駄肉ついてねぇぞ?


 ため息を吐きながら、俺は思わず口にしていた。


「お前、俺のことほんとに好きなの?ただ、筋肉が好きなだけじゃないのか?」


 すると。

 彼女は妖艶に微笑み、言った。


「わたしは、筋肉質なあなたが好きなの」


 なんか、体よくごまかされた気分。

 でも、これだけはわかった。


 たるんだ体の俺はすぐに捨てられる、ってことだな。

 いつまで持つかな、俺たち…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ほんとに俺のこと好きなの? 平 遊 @taira_yuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ