色々試してみたけれど

平 遊

そこに愛はあるんかい?!

「しのぶは、本当に筋肉無いなぁ!」

「そんなに筋肉無いのに、よく普通に生活できるよね」


 旦那にも小学生の息子にもそんなことを言われてしまうくらい、私には筋肉が無い。

 らしい。

 しのぶ、とは私のこと。

 確かに私は、自慢じゃないが、腹筋も逆上がりも、生まれてこの方、自力で出来たことが一回もない。どこにどうやって力を入れればいいのか、皆目見当もつかないのだ。学生時代の体力測定などは、一体何の辱めなのかと、毎回思うほど。

 体育の授業なんて、この世から消えて無くなれば良いのにと、思わない日は無かった。


 こんな私でも、全く努力をしてこなかった訳では無い。

 大人になってからは、通販のいわゆる『トレーニング・グッズ』を、山ほど買って、山ほど試した。


「また買ったのか?!」

「どうせすぐ、やめちゃうくせに」


 との、旦那と息子からの言葉にもメゲずに。


 踏み台昇降用の台。

 安かったし、自分のペースでテレビでも見ながらやればいい。

 なんて思っていたけど。

 今ではただの踏み台と化している。

 テレビを見ながらなんて、無理だし。

 すぐに疲れちゃって、テレビを見るどころじゃなくなってしまう。

 たまに、息子が踏み台昇降をして遊んでいるのよね。何が楽しいのだか分からないけど。


 エアロバイク。

 これなら、自分のペースでテレビでも見ながらやれるはず。

 なんて思っていたけど。

 今では空き部屋の片隅に。たまに、脱いだ上着なんかを引っ掛けるのに使っていたりして。

 エアロバイクもやっぱり疲れるのだ。

 私には高いハードルだった。

 たまに、音楽をかけながら旦那が鼻歌交じりに漕いだりしてるみたい。

 埃を被ったままよりは、ずっといいわね。


 トランポリン。

 全身運動にいいって言うし、何より楽しそうじゃない?!

 ポヨンポヨン飛び跳ねるだけで、運動になるなんて!

 なんて思っていたけど。

 ちょっと、ね。

 私、三半規管が人より弱いみたいで…頭が振られて気持ち悪くなってしまって。

 幸い、旦那と息子は気に入ったようで、休みの日に二人でポヨンポヨンと遊んでいるから、まぁいいか。


 腹筋用のコロコロ。

 タイヤの両脇に棒が出ていて、膝をついて両手で棒を持って、コロコロを転がしながら上体を前に伸ばしたり戻したりする、あれ。

 テレビだとみんな簡単そうにやっていたし、これなら私だって!

 って思ったのに。

 …上体を前に伸ばしたら、そのまま全然戻ってこられなくて…ベシャッと潰れた。

 それを見ていた旦那も息子も大笑い。

 息子なんて、スイスイ使っちゃってさ。

 だから、そのまま息子にあげたわ。


 今度こそ!

 って思って買ったのは、腹筋用の椅子。

 S字形の椅子で、ワザと不安定に作ってあって。

 座ってユラユラしているだけで、腹筋が鍛えられるのだという優れもの!

 さすがにこれならできるわ、私にだって!

 って使ってみたのに…

 何故だか、首の筋を痛めてしまって、断念。

 旦那が言うには、あまりに腹筋が無さすぎて、頭や首の力で無理矢理椅子をユラユラ動かしていたから、首を痛めたんじゃないか?って。

 …一言も言い返せなかったわ。

 ユラユラ具合が気に入ったのか、椅子は旦那が使い始めたから、そのまま旦那にあげちゃった。


 そんなわけで。

 私は目下、新たな『トレーニング・グッズ』を物色中。

 そして気づけば。

 旦那と息子の体は少しずつ鍛えられて、いつのまにかしっかりした筋肉のついた、細マッチョ体型に!


 何故っ?!

 何故なのっ?!

 私の体には、未だ脂肪しか付かないというのにっ!


 恨めしげな目を旦那と息子へと向ければ。


「しのぶは、本当に筋肉無いなぁ!でも、そのポッチャリしているところがまた、可愛いいんだよな」

「母ちゃんの柔らかいとこ、オレ好きだな。いいんだよ、母ちゃんは筋肉なくたって。その分父ちゃんとオレが、筋肉つけるからさ」


 もうっ!

 なんなの、この人も、この子も!

 なんて可愛いことを言ってくれるのかしらっ?!


 二人の言葉に感動して、チョビっとだけウルッときたのに。


「また余計なもの買われたら堪らないしな」

「うん。だったらオレ、ゲーム欲しいよ!」


 そっちかーいっ!!


【終】

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色々試してみたけれど 平 遊 @taira_yuu

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