あなたが落としたのは性格のいい美少女ですか? それとも体格のいい美少女ですか?
やまおか
第1話
緑生い茂る森の中、オレは日課の仕事として斧をガッツンガッツンと木に打ちつけていた。
ヘイヘイホー!!
気合の声が木をゆらし、ばきばきと音をたててずしんと重い音とともに木が倒れる。自分の人生よりも数倍生きてきた木を、こちらの都合で一方的に倒す感覚は何度やっても爽快だった。
おなかがすいてきたころに、いつもどおり不満たらたらで幼馴染の少女が昼飯をつめたバスケットを提げてやってきた。
「ほら持ってきてやったわよ。感謝しなさい」
いつもの場所、泉のほとりで昼食を食べ始める。湖面を通った風がほてった体に気持ちよくてお気に入りの場所だった。やわらかな日差しが隣に座った幼馴染の顔を明るく照らしている。
そこに一際強い風がざあと吹くと彼女がかぶっていた帽子が飛んでいった。この前町にいったときに買ってもらったと自慢していたやつだ。
彼女は必至に追いかけた。地面に落として汚したくないのだろう。帽子めがけて野生の獣のように飛びかかった。
「おっしゃあ! つかまえ―――」
喜びの声は途中で途切れた。
彼女が足をつけるはずの指先には水面があるのみ。飛び込んだ勢いで派手な水しぶきをたて沈んでいった。そろそろ助けようかなと、準備運動を始めたときであった。
「あなたが落としたのは性格のいい美少女ですか? それとも、体格のいい美少女ですか?」
太陽のきらめきを放ちながら、一人の美女が水面を割って現れた。
ゆったりとした白いローブで身を包み、波打つ金色の髪はさらさらと風にゆれる。ひとならざる存在なのは確かだった。しかし、怪しさはなく、その口元にたたえた優しげな微笑みをひとを安心させる。女神という言葉以外思いつかなかった。
「はい、私が女神です。さあ、選んでください」
気になるのは、女神のかたわらに控える二人の少女だった。二人とも幼馴染と瓜二つといっていい顔立ちをしている。しかし、その印象は大きく違っている。
一人は母親のような包容力のある優しげな微笑を浮かべた少女。
もう一人の少女は、しなやかな体つきで快活な笑みを向けてくる。
「…………」
ただの幼馴染の少女は女神の小脇にかかえられ、ぽたぽたと水滴をしたたらせている。濡れた前髪がはりついてその表情はよく見えない。
この中から一人を選べということらしい。
性格のいい美少女を選べばいい奥さんとなり、きっと温かで幸せな家庭が築けるだろう。
体格のいい美少女はいい相棒となり、仕事の効率があがり将来は安泰だろう。
ただの幼馴染の少女を選べば、腐れ縁のままぎゃーぎゃーと騒がしい日常が続くだろう。
女にはいろんな面がある。
かわいいところや、小憎たらしいところ。人を好きになるっていうのをそんなところもひっくるめて背負うということだ、と父から教えられた。
だから、オレの答えは……
「選ぶのは3人ともだ!!」
「そうですか、あなたは正直ものですね」
湖の女神はにっこりと笑みを浮かべた。性格のいい美少女と体格のいい美少女、それとただの幼馴染の少女を渡してくれた。やったぁ、ハーレムだ。
「最低っ!!」
顔をはたかれてくるくると視界が回る。浮遊感のあと派手な水しぶきをあげて湖面に沈んでいった。
ゆらゆらとゆれる水面から差し込む光を目指して浮上していく。ざぱりと水面から顔をだすと、幼馴染が驚いた顔をしてこちらを見ている。
オレが増えていた。
ひとりは涼しげな目元をしたオレで、もうひとりは筋肉むきむきのオレだった。
「さあ、選べ! 性格のいいオレと、体格のいいオレ、それとただの幼馴染のオレ、どいつがいい!!」
「知るか!!」
逃げる彼女を追いかけようとするが、他の二人のオレは黙って見送るだけだ。性格のいい美少女と、体格のいい美少女も同じような微笑を浮かべていた。
結局、残ったのはただのオレといつもの幼馴染の二人だけ。元通りの生活に戻ってしまった。
変化といえば、少女がときおり「本当はどのわたしがよかったの?」と聞いてくるぐらいであった。
あなたが落としたのは性格のいい美少女ですか? それとも体格のいい美少女ですか? やまおか @kawanta415
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