恋愛ポンプ

@ramia294

第1話

 通勤電車。

 気になるあの娘。


 長い黒髪、バラ色の頬。

 彼女の大きなクリクリお目々、僕の胸を熱くして、

 トキメク。

 彼女の視線を欲しがる僕の胸の痛み


 しかし…


 この僕の胸の高鳴りに気づかない彼女は、友達と楽しそうに、笑うだけ。

 彼女の笑顔は、春風のよう。

 優しく通り過ぎるだけ。

 つかめない、温もり。

 僕は、愛しい笑顔を見てるだけ。


 トキメキ、

 高鳴り、

 熱くなる。

 


 どこが?

 胸?

 それは、きっと心臓。

 赤い、赤い血液を僕の全身に送る心臓。

 心臓は、ポンプ。

 規則正しく全身に血液を送る。

 心臓は、筋肉。

 休むことなく、働き続ける、

 生真面目な筋肉。


 あれ?

 なぜトキメクの?

 高鳴る胸?

 心臓の筋肉に負担…大。

 僕の心臓は、大丈夫?


 心臓に悪い、恋の症状。

 でも…。

 症状があれば、それは恋。

 それなら、春風のような笑顔の彼女に、

 恋の症状を作りましょう。

 僕を見る時、春風さんもドキドキ、ドキドキしてもらいましょう。

 それは、僕に恋する春風さんの誕生の瞬間。


 ポンプコントローラー。

 僕は作ってみました。

 スマホ型のコントローラー、電車の中の彼女に向けて、スワイプ。


 送られた光が、心臓の筋肉を刺激。

 洞結節にごあいさつ。

 彼女の心臓が、一瞬強く打つことで、

 恋の錯覚、ドキドキ体験。

 これで、春風さんの心は僕のもの。

 早速明日の通勤電車、

 コントローラー、試しましょう。


 混雑する朝の通勤時間。

 上手く、彼女の近くに、乗り込む事が、出来ました。

 早速、スマホを使うふりをして、

 コントローラー取り出します。


 春風笑顔の彼女に向けて、

 恋の光を彼女の胸へ、


 発射!


 その時、列車がガタンと揺れて、狙いがそれてしまいます。

 彼女と一緒のお友だち。

 タレ目の可愛いお友だち。

 タレ目ちゃんのその胸へ、恋の光が吸い込まれ。

 揺れて、よろめくタレ目ちゃん、

 僕の胸に倒れ込みました。


「ごめんなさい」


 あやまる彼女。

 見上げる視線のその先には、僕。

 熱く見つめる彼女のタレ目。

 瞳の中のハートのマーク。


 ハートのマーク?


 まさか、まさかの失敗は、

 思わぬ恋を生みました。


 コントローラー、充電切れて、

 春風さんを狙えません。


 翌日お休み、僕はひとりで、楽しみにしていた映画を観に行きました。

 なんと、偶然お隣の席。

 タレ目ちゃんが、座ります。

 気づいた、彼女は、立ち上がり、


「あの時、どうもごめんなさい」


「いえいえ、そんなに気にしないで。混雑列車は仕方ない」


 映画が、終わるとお詫びがしたいと、彼女に、お昼を誘われました。

 ふたりで食べるオムライス。

 ケチャップのハートに、僕の胸。

 なんだか、ザワザワいたします。

 観て来た映画を楽しく話す、タレ目ちゃん。

 瞳のハートとケチャップハートとが重なって、僕の胸を締め付けます。

 どうしたのでしょう?

 僕の胸?



 その夜、僕は、コントローラー調べます。

 ポンプコントローラーの光は、保存されます。

 

 光を受けた人の胸から目へ、移動した光は

 その人の見つめる相手へ飛んで行き、今度はその人の胸を


 ドキン!


 ポンプコントローラーの生み出す恋は、両想いの恋。

 あなたに必ず、幸せを。

  

 気づけば僕の胸の中。

 春風さんは、次の季節へ去っていき、

 心の中には、タレ目ちゃん。

 僕の早朝、通勤電車。

 笑顔の光るタレ目ちゃん。

 タレ目ちゃんの光を受けて、

 いつの間にか、僕の胸。

 優しい気持ちで満たされます。


 タレ目ちゃんから光を受けて、

 僕の心臓、今日も元気いっぱい働いています。


         終わり


 

 

 



 

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