じいちゃんの真実【KAC20235】
あきのりんご
じいちゃんの真実
少し前に白寿を祝った祖父が他界した。
百歳直前で惜しかったけど、大往生と言っていいだろう。
亡くなる前日まで元気でたくさん食べてよく笑い、そのまま眠って翌朝は起きなかったというから理想の最期だと思う。
若い頃の祖父は身長が一八〇ぐらいあったと聞いていたけど、腰が曲がってずいぶんと小さく見えていたから絶対に嘘だと思った。
ほかにも嘘だと思う話はたくさんある。
祖父の武勇伝だ。
戦時中は祖父が所属する部隊が全滅したと連絡が入り、葬式の準備をしている曾祖母の背後から「お、誰の葬式だい?」と陽気な声をかけて曾祖母は卒倒したという。
本人だと信じてもらえるまで時間がかかったとか。
ほかにも山登り中、熊に襲われかけた話も聞いた。
祖父の細いふくらはぎに残る痛々しい傷跡を見せてもらったことがある。
そんな傷だけで済むだろうか?
「まあこれは熊に直接やられたんじゃなくて、熊に驚いて逃げ出すときに足を踏み外して崖から転落しちゃったんだよ」
なんて笑っていた。
祖母との馴れ初めもおかしい。海で釣りをしているときに小舟が転覆して溺れた祖父を救助してくれた漁師の娘が祖母だったと。
漫画みたいだ。
孫である俺が生まれたとき、急いで産院へ車を走らせていると前の車がスピードを出し過ぎて横転し、それに巻き込まれて祖父の車も大破した。
でも祖父は奇跡的に無傷だったとか。
まじで?
そんな話が山ほどある。
全部が嘘とは思わないけど、かなり盛ってるよな?
ところが。
曲がったまま死後硬直していた祖父の肉体を、葬儀社が湯灌でほぐしながら伸ばしていくと想定身長よりずいぶんと細長い体型になった。
事前発注していた棺では納まりきらないことがわかり、棺のサイズ変更を余儀なくされた。
嘘だろ。じいちゃん本当に一八〇センチあったんだ!
「ほら、本当だったじゃろ?」
葬儀の後、嬉しそうに笑う祖父の夢を見た。
わかった、全部信じるよ。
じいちゃんの真実【KAC20235】 あきのりんご @autumn-moonlight
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます