第4話

2人で、どこかを歩いている。横に緑がある気がするが、歩きやすい。森では無いが、森に近いどこかなのかもしれない。


人は誰も居ないはずなのに、青年の言葉一つ一つが分裂して、轟いて私を囲む。巨大なシンバルを耳元で一生打ち合わされている。


私たちは手を繋いでどこかを歩いている。


「俺を探して。」

「それから、ずっと選び続けて。色の中から。お願い、お願い、お願い。」


氾濫する。

彼が何を言っているのか理解できない。余りにも広がりすぎているから。

変声を迎えてそこまで経っていない声が、青緑の色を持って広がってゆく。

熱心に話しかけてくる彼に対して、私は、あー、うん。と上の空で返事を返す。

澄むような青緑が心地よかったので、深い思考を捨ててしまいたかった。ライトの激しい黒白でなく、穏やかな寒色だけに意識を集中させたかった。

独特の柔らかさを持ったそれが、浅い海に波打つような波紋を描いて私の世界を新しくする。

気がつけば唇が合わさっていた。私は青年の肩を食い込むほどに強く掴み、顔を傾けた。

白が飛ぶような陽だまりの中、森林の美しい湖畔で、彼と海水浴をする想像をする。人も生物も居ない切り取られた静寂と、風呂の栓を抜いた時のような台風の渦を巻く轟音との間に水音が弾けて、2人は幸せそうに笑っていた。

快感を分かちあった。

「泳いで。」

言わされたように口が動く。


ピカリと視界が明るくなる。


たぶん、青緑の目が私を見ていた。


私たちは、道路の真ん中に立っている。


車のライトが青緑に私たちを照らしていた。

次の瞬間、強烈な痛みを感じては世界は終焉を迎える。




クラブよりも随分と暗い場所に居る。

しかし、私はほんの少しも不安ではなかった。ぼんやりとした暗がりの中に、青緑の湖畔が映る。

パンフレットのインクが鮮明と映し出した、青緑。


私と彼女は、その中で水音を跳ねさせながら泳いでいた。先を泳ぐ彼女を追いかけても追いかけても追いつかない。けれど、その間はこの時間がずっと続くのだ。だからなんの不安もなかった。

追いついた時になんて声をかけてやろうか考えながら泳いでいれば、飽きることは無かった。いたずらをしてもいい。そうだ、私は思いつく。キスをしよう。


「ちょっと、ハンデしてよ」

私は幸せそうに笑いながら、おどけたようにそう言った。

彼女は振り帰ってひとつ私に微笑みかければ、意地悪くも、まだ泳ぎ出した。


青緑の湖畔は何処までも続いている。

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溺死 ヒソ男 @coc_dorei

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