第4話 Twitter

「実際のところどうなんですか?澪子には聡子という妹がいるのですが成り代わっているという可能性は?」

「大いにありうる。だが、同じように中国語が堪能なわけじゃないだろう?」

「いえ、澪子と同じで国籍は向こうです。ログインの中国語でのパスワードも打ち込めるはず」

「なるほどねえ」

 そこで、一旦先生は黙った。特になにも返信がなかったので一旦チャットを閉じた。

 けれど、僕はそこでこの問題を終わらせるわけにはいかなかった。

 家では中国語の勉強をする、学校では聡子と話す。

 これが俺の生活スタイルなのだが、澪子にそっぽを向かってしまっては少し雲行きが怪しい。

 再び先生にメールを送ろうとしたが、一旦手が止まった。先に聡子に聞いてみることにする。

 なりませんよね。できれば中国語でお願いします」

 チャットのメールメッセージにはsatokoの文字が印字されている。つまり聡子のアカウントであると言うことだ。

 けれど、今ひとつ信用できないのは、彼女が日本語を使い続けていると言うことである。そうはいっても、事情が事情なので仕方ない。どこまで本当なのか、こればっかりはわからない。

 とりあえず、澪子にも一度連絡をとってみることにする。もちろん日本語でだ。

「聡子とはどう言う関係なんだ?」

「もちろん、妹だけどそんなことより中国語にしてくれるかしら。『快点』」

 最後の二文字でなにやら罵声のニュアンスが含まれていることがわかるので、ここは大人しく引き下がっておく。

「わかったけど、とにかく聡子には気をつけたほうがいい。君のアカウントを操作している可能性がある」

「それは流石に說謊。けれど、聡子は私のことをあまりにも好きすぎる嫌いがあるから気をつけるようにはしてる。けれど、それあなたが気にすることではないはないわ。なぜなら、私の手に全てはあるから」

 なるほど、けれど心配になってしまうのが人の性である。

「だがIDは顔認証システムを含んでいるだろう。君の代わりにログインすることも可能なはずだ」

「なるほど確かにそれはそうね。けれどそんなことする必要あるかしかしら」

「そこが俺もわからないところなんだ。けれど、聡子には本当に気をつけたほうがいいぞ」

「わかったわ。それから今のやりとりを全て中国訳しておくこと」

「無理に決まってんだろ」

 そこで会話は一旦途切れたが、無理なもの因為我對你寄予厚望は無理である。大体中国語はもちろん単語を知っているだけでは理解できない。

「無理ではないわ。私は御厨くんの底力を信じているの。だから跟我来

 」

「いや、その三文字がもうわからねーよ。まあ調べるけど」

「いい心がけね。精進するといいわ」

 精進したい気持ちはあるにはあるが、最近は少し勉強に遅れ気味である。中国語の勉強に加えて聡子という存在まで出てきた。

 色々パニックになりながらどうにか目の前の問題を処理している。このままでいいのだろうか。

『拉屎!』

 めちゃめちゃ汚い言葉を吐いてしまったので目の前でばってんを描いた。

 意味がないのはわかるけどおまじないのようなものだ。

 呪いの類を信じる方ではないけれどあまりにも汚すぎたからだ。意味はクソが!英語ではファ○ク。

 最初に覚えた中国語だという点が難儀だが、澪子の前では言ったことがない。

 澪子はあまり汚い言葉は好まない。女の子なので当然だけどそもそもそもの育ちが違うのだ。

 俺は全く平凡な家庭で育ったため、あまりそういった教育はなされなかった。



 ともかく澪子に何か連絡を入れなくてはと頭では分かっているのだがなかなか行動に移せない俺自身の中国語の習得に合わせて彼女は、向き合ってくれているのだ。無碍にすることはできない。

『好傷心』

 思わずため息が漏れた。

 なんとなくTwitterを開いてみる。

 澪子のページには更新がない。

 別に落胆しているわけではなく、なにか怒っていないかチェックしたかっただけだ。

 とはいえ、過去のツイートは参照でる。中国語が半分、日本語が半分といったところがでフォロワーもなかなか多い。

 最後のツイートは、『晚安』

 意味はおやすみだが、投稿時刻が19:30となっている。

 いやどれだけ早寝なんだよ。

 とかいいつつ、いいねを押した。

 次の日、学校へ行くと澪子がいきなり近づいてきて、なにやら言いたげな表情でこちらを向いた。

「どうした?」と僕が問うと、スマホの通知が鳴った。なにやらDMが来ていて、澪子からだった。

『我很高興喜歡它,但請不要再三心二意了』

 俺はIDに検索をかけて意味を把握した。言わんとするところはわかるけど中途半端にいいねするなとはどういうことだ?その意味を測りかねてるうちに澪子は自分の席に戻っていった。

 少し不安の残るやり取りではあったが、別に関係を切られたわけではない。

 関係を切られたくないとかそういうことではなくて、問題は聡子がどう動いているかだ。

『我想知道為什麼』

 僕の中国語もいたについてきたな。

 どうしてなんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帰国子女の澪子さんは中国語がお上手 まひるね @electric-ziggy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ