筋肉がすべてを解決してくれるなら今頃はハッピーエンド

秋乃晃

無を取得してある座標に投げ込むとエンディングを呼び出せます。

「我々はでち!」


 を名乗るちっちゃい女の子たちが家に押し寄せた。

 体操服姿の。


 ざっと数えて四十人。


「嘘じゃん」


 扉を開けた俺は追い払おうとする。そりゃそうだろ。いくらなんでもありえないって。いやまあ、一人や二人なら「父親アイツやりやがったな」ってなるけどさ。四十人はおかしいでしょ。


 代表して妹を名乗った先頭の一人が「証明書があるでち!」と小さく折り畳んだわら半紙のプリントを広げて見せつけてきた。他の三十九人もそれにならって「あるでち!」「見せるでち!」「どやーでち!」と同じようなくしゃくしゃのプリントをポケットから取り出す。


「あらあら。こんな可愛い子たちを追い出すなんてとんでもないわ」


 おばあさまはその高すぎる対応力で全員を家に受け入れてしまった。可愛いのは認めるけどさ。なんでそうなるの。


 四十人の部屋は、台所の床にある扉を開けた先に用意された。あったんだそんな部屋。秘密の部屋ってこと?


 おかげで、夜は四十人が床に吸い込まれていき、朝は四十人が床から生えてくるようになった。


「今日も悪い宇宙人が来たときのために、特訓するぞ!」


 お前はどうなんだよ宇宙の果てからやってきた侵略者。という俺のツッコミをかき消すように四十人が「はいでち!」「やってやるでち!」「イエスでち!」と返していく。


 良い宇宙人のアンゴルモアこと安藤モアは四十人を鍛えて、最強の地球防衛軍を作るらしい。がんばってほしい。


 四十人はモアの「はじめ!」の合図で、ダンベルではなく、ダンベルに見立てた水を入れたペットボトルで筋トレしている。このあとはスクワットをしたり腿の上げ下げをしたりといった一連の筋トレメニューが続く。


「タクミもやろう!」


 モアにダンベルを渡されそうになったが、俺はやりたくない。見ているだけで疲れる。


「妹たちが鍛えているというのに、兄が軟弱でどうする」

「知らないよそんなの」

「みんなもそう思わないか!」


 嫌な圧のかけ方だ。どこで学んだんだろ。


 モアの呼びかけに、四十人は最初は戸惑っている様子だったけど、端っこのほうの一人が「おにいちゃんもやるでち!」と叫ぶと、みんな「そうでち!」「鍛えるでち!」「みんなで鍛えれば怖くないでち!」と言い始めた。四十一人がかりは卑怯じゃねェかな?


「俺は指揮官で、前線には出ないからさ」

「スクワット百回!」

「嫌だよ」

「妹たちに示しがつかないぞ!」


 もうやだこの夢。

 早く終わってくれよ。

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筋肉がすべてを解決してくれるなら今頃はハッピーエンド 秋乃晃 @EM_Akino

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