筋肉とお家デートと例のあれ

日諸 畔(ひもろ ほとり)

筋トレの成果

 俺は基本的にインドアだ。運動の類は好まない。その上で食べるのが好きなのだから、どんな体型をしているかは簡単に想像できるだろう。


 そんな俺が筋トレを始めた。革命とも言える、異常事態である。要因は、もちろん彼女ができたことだ。

 ポヨっと出たお腹やプニプニの二の腕は、正直見栄えが悪い。これで振られてしまっては、人生の大損害だろう。

 とはいえ、そんなに大それた事はしていない。某動画サイトで公開されている、簡単にできる程度のものだ。


 三日坊主な俺にしては珍しく、思い付きの筋トレは二ヶ月程度続いた。ただ、残念ながら見た目の変化はさほどなかった。

 しかし、それはあくまでも自己評価の話だったようだ。


「あれ、ちょっと引き締まった?」


 その日、俺のアパートでお茶を飲みながら、彼女が問いかけてきた。遠方に住んでいるため、会うのは実に二ヶ月ぶりだ。


「そうかな。筋トレ始めたからかも。簡単なのだけど」

「おおー、そっかー」


 鼻息を荒くした彼女は、俺のお腹や腕を触る。触ると言うよりは、揉む。


「うーむ、これは」

「どうしたの?」


 彼女はどうも不満げだ。引き締まったと褒めてくれたのに対し、態度が逆になっている。


「ぽよぽよ、好きだったのに」

「あ、そうなの?」

「うん、だからちょっと残念」


 彼女の好みは、そういうことだったらしい。なるほどと、俺は納得する。引き締まった男性が好きならば、そもそも俺とお付き合いなどしていない。


「あ、でも、健康的なのは良いと思うよ。筋トレしてて偉い」

「うん、ありがと」


 否定的なことを口にした時、彼女は必ずフォローを加える。俺が好きなところのひとつだ。


「多少筋肉ついたから、あれできるかもよ」

「あれ?」

「うん、例のあれ。ちょっと立ってみて」

「ん?」


 俺は彼女の首の後ろと膝の裏に、両腕をそれぞれ添えた。この時点で、意図は通じたようだった。彼女は体の力を抜き、俺に体重を預ける。


「よっ」

「ふぁっ!」


 決して軽々しくではないが、例の体勢になった。勇者がお姫様を助けた時にするやつだ。

 しかも、ある程度安定している。


「びっくりした」

「俺も」

「んふふー、同じだね」


 筋トレの成果は、見た目よりも内側に出ていたみたいだった。

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