超・筋力

惟風

超・筋力

「何が『ESP能力』だ。結局、“物理”最強なんだよ」

 言いながら、かけるは講習会の最後の一人の首を引きちぎった。元の色がわからないくらい、翔の服は返り血で染まっている。


 ESP能力――超感覚的知覚。テレパシーとか予知能力とか透視とか、いわゆる“超能力”と呼ばれるもの。

『ESP能力開発セミナー』と銘打った怪しい講習会、要はカルト集団の一種だ。未来予知、陰謀の暴露、天候操作も思いのままの人知を超えた能力者を育て、選ばれた者達でこの世を統治して幸せになろう。だって。


 超能力者、なれたら良いね。なれば良い。お前等だけで。

 そう言って反抗できる子供なんて、世の中どれほどいるだろう。

 ボンクラな親の元に生まれて、そいつらの紙より薄っぺらい人生の一発逆転劇の道具として使い潰されることを拒むには、どうすれば良い?


 私達が出した答えが、今の現状だ。

 駅から程近い雑居ビルの一室が、ESP能力開発のトレーニング会場だった。天井も壁も床も白い会議室みたいな空間は、所狭しと死体が積み上がっていた。

 胡散臭い機械で胡散臭い検査を行うオトナ達。それに付き合わされていた、小学生以下の子供達。おがくずより無駄な脳みその詰まった親達。

 皆死んだ。皆殺した。翔が、一人で。

 子供達は見逃そうかなってちょっと思ったけど、どうせ死んだ目をしてたし。可哀想だから殺してあげた。実際、大人達と違って抵抗しなかった。

 私と翔は、たまたまよくわからない検査の数値が良かったせいで、十五歳を過ぎてもここに縛り付けられていた。

 トレーニングから逃れたところで、あらゆる手段で研究費を稼がされるだけだから別にどっちでも良かった。

 それがある日。

 本当に、“超能力”ってやつが開花してしまった。想定とは違うモノだったけど。

 翔の能力は、“超・筋力”。素手の力がバカ強いってだけ。車もコンクリートも、彼にかかれば粘土とか折り紙みたいなもん。

 脳筋な翔にはうってつけの能力だ。


 でも、夢の超能力を手に入れたって言うのに、周りの大人達の反応は冷ややかだった。

 空を飛ぶとか手を使わずに遠くのモノを動かすとか、そういう派手な能力を期待してたんだと思う。

 本当に、馬鹿みたいだ。

 勝手に期待して、勝手に世間から引き離して、勝手に失望して。

 失望する権利があるのは私達の方だよ。

 だから、全部破壊しようと思った。翔に持ちかけたら、二つ返事で了承してくれた。力があり余って仕方ないんだって。


 全部破壊しよう。

 ぜんぶ。


「あっけないモンだったなあ、腹減ったし、帰ろっか」


 翔が私の方を振り向いた時だった。

 大きな音を立てて、壁が崩れた。

 壁の向こうから出てきたのは――




 筋肉量が通常より遥かに多い巨大なアオザメだ!

 それは隣のジムで筋トレをしていた鮫だった!

 ムキムキ・シャークだ!


「嘘だろ……」


 それが、翔の最期の言葉だった。

 翔を呑み込んだ鮫が、私に迫ってくる。

 何の恐怖も湧かなかった。

 全部、わかっていたから。

 最初から全て破壊するつもりだった。私と翔も含めて。何もかも、無くなった方が良いんだ。


 私は全てを見通す“千里眼”で、襲い来る鮫の鋭い牙を見据えた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超・筋力 惟風 @ifuw

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説