助けたエルフを甘やかしまくったら無事ニートに育ちました~自堕落ニート生産者の俺は今日も金髪美少女エルフに逆らえない~

森 拓也

第1話 プロローグ

 俺の名前は三木 泊みき はく。二か月前まで少しオタクなだけの普通の大学生だったが、気が付いたらこの異世界にいた


 最初は例に漏れず混乱しながらも喜んだ


 やった!


 やったぞ!


 これで!夢にまで見た異世界で!特別な力を手に入れて!無双できるんだ!――って、



 でも、どれだけ探そうがチートスキルを与えてくれるはずの神や聖剣と魔王を倒す使命をくれる王様は現れなかったし、それどころか俺を召喚したやつすらどこにもいなかった



 異世界で一人、学もない俺は肉体労働者である冒険者になるしかなかったが、幸いにも普通に才能のあった俺は冒険者として普通に生活することができた


 昔から普通以上のことはできなかったが、逆に言えば普通のことはできていた




 そんな俺は今、ブラックタイガー討伐のクエストを受けて森に来ている


 魔物の捜索をし奥地に足を踏み入れたその瞬間――


「きゃゃーー!!」


「悲鳴!?待ってろ、今行く!」


 西の方角から女性のものと思われる悲鳴が聞えたため、俺は一目散に現場へ駆けつけた





 ◆◆


 声の方向に向かうとブラックタイガーに少女が大木の下に追い込まれていた



「……はぁっ、はぁっ、……こ、来ないでぇ」


幻影斬撃ファントムスラッシュ!」 


 幻影をまとった俺の斬撃が魔物を錯乱させながら踊り狂うようにして両断した



「大丈夫か!?」


「人間……」


「かなり出血しているな、このポーションを使え」


「す、すごい……傷が消えていく……」


 十代前半位の年の金髪で碧眼のエルフの少女はポーションの回復力に驚いたのか大きく目を見開いてからこちらを向いた



「人間、助けてくれて……ありがとう」


「どういたしまして……俺の名前はリヒトだ冒険者をやっている、お前は?」


「……分からない」


「分からない……どういうことだ?」


「……何も思い出せないの自分が誰なのか、名前も何もかも思い出せない……私、気が付いたらこの森にいて、魔物に襲われて――いっ!?」


「おい!大丈夫か!?おい!」


 突然、頭を抱えた少女が気を失った。体を揺らしても反応は無い。呼吸はしているが完全に意識を失っている


 俺は少女を抱えて帰路を急いだ





 ◆◆

 

「ここは……?」


「無事に目が覚めたみたいだな」


 俺の自宅のベットで眠りから覚めた少女は額の布に手を当てながらゆっくりと上体を起こして、こちらを見て少し警戒をしているそぶりを見せた


 

「また……助けてくれたの?」


「まあな、いきなり倒れたから家に連れて来たんだ」


「見ず知らずの私を二度も助けてくれて……本当にありがとう」


「どういたしまして……それで、何か思い出せたか?」


「まだ……何も、」


 少女は深く頭を下げて感謝を伝えた後、困ったように眉を下げた



「そっか、うーん……」


 記憶の回復は神殿に行けば出来るがバカみたいな金が要るからなぁ、見たところ所持品は何もないし俺も金に余裕があるわけじゃないからな



「とりあえず、仮の名前だけでも決めておくか!なんて呼ばれたい?」


「特に希望はない……リヒトに決めて欲しい」


「分かった、じゃあ……アオだ」


「瞳が青いから?」


「そうだ」


「安直……」


「気に入らないか……なら、別の名前にしよう」


「ううん、アオがいい」


 そう答えたアオは少し口角を上げた。その笑顔には人を魅了する華やかな可憐さがあり、俺はそのあまりの魅力に思わず見とれてしまった



「私の顔に何かついてるの?」


「いや……可愛い笑顔に見とれていただけだ」


「かっ、かわっ!?」


「うん、可愛い」


「い、いきなり口説きだしてどういうつもり!?……ほ、褒めたって体は許してあげないんだからっ、」


「そんなつもりはない、ただ思ったことを口にしただけだ」


「……女たらし」


「何か言ったか?」


「別にぃ」


「そうか、まだ聞きたい事はあるが……もう夜も遅い、話の続きは明日だ」


「あなたの家には他にもベットがあるの?」


「いいや、その一つだけだ」


「じゃあ……一緒に寝よ」


「一緒にって、そのベットで?」


「うん、命の恩人を差し置いてベットで寝る訳にはいかない」


「……分かった」


 俺はベットに入った……が本来は一人用のベットな為、二人で入ると普通に狭かった



「おやすみ、アオ」


「……おやすみ—―すぅ、すぅ」



 アオはすぐ眠りに就いたが、反対に俺はすぐ隣で眠る華奢な美少女にドキドキしまくりこの日はなかなか眠ることができなかった






 ◆◆


 チュンチュン—―鳥のさえずりが朝を告げるのと同時に物音がした


「ん~、朝か?」


「おはよう……起こしちゃった?」


 物音の正体は先に目を覚ましたアオが起き上ろうと体を動かしたときの音だったようだ



「いや、むしろいい時間だ朝飯を食おう」


「朝ご飯も食べさせてくれるの?」


「ああ……必要なかったか?」


「ううん、そんなことない……でも、その前に一つ話さないといけないことがある」


「何だ?」


「思い出したの……昔のことを」


「そうか……できる限りでいいから聞かせてほしい」


「うん、話す……ひと月前私の里は魔族に襲われて若い女以外全員殺されて、女は全員魔族の奴隷にされて魔力を奪われた」


「……」


「私もその一人……暗い所に連れていかれて一人ずつ死ぬまで犯されていって、ついに私だけになった時に人間が助けてくれた。でも……その人間も魔族と同じことをしようとした……だから、魔族が死んで使えるようになった魔力で必死に逃げた」


「……」


「何日も何日も逃げ続けていく中で途中で意識を失った……そして気が付いたらあの森にいて、魔物に襲われている所をあなたに助けられた……」


 言葉が見つからない、辛い話をそれでも伝えてくれたアオに俺はどう誠意を示せばいいのだろう……



「……よく、生き残ったな」


「な……んで?……頭、撫でて……」


「嫌か?」


「ううん、このままがいい……もっと、アオのことなでなでしてぇ」


「ああ、気がすむまで撫でてやる」


「ありがとう……ご主人様💕」


「ご主人様!?」


「うん、」


「俺が、アオの?」


「ご主人様はアオのご主人様になるの……嫌?」


「嫌ではないが……その代わり……」


「その代わり?」


「今までの不幸がかすむ位に甘やかしてやるから覚悟しとけよ」


「キャー、ご主人様にダメダメにされちゃうー」







 ――数年後


「ただいま」


 クエストから帰ってきた俺は荷物を置いてリビングに向かうと、そこにはポテチとコーラらしきものを摂取しながら、最近ブームになっている魔力で動く携帯ゲーム機で遊びながら寝転んでいるアオがいた



「あ、ご主人帰って来てたんだ。お腹すいたー」


「『お腹すいたー』、じゃねえ……今日の料理当番はアオだよな?」


「あっ……てへっ、」


「そんな顔しても誤魔化されねぇぞ」


「ご主人厳しー、もっとアオちゃんを甘やかせー」


「その結果がこれだろ……てっ、おいおい駄々をこねるな」



 ――と、この通り助けたエルフを甘やかしまくった結果、無事ムチムチのニートが爆誕しました





 ◆◆お礼・お願い◆◆


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