街灯の下に佇んでいたもの

秋空 脱兎

コンビニへ立ち寄った後に見たそれは太陽のように眩しくて

 真夜中。

 ふと散歩に行きたくなり、気付いたら最低限の荷物を持って外に出ていた。

 小腹が空いていたのもあって、コンビニに立ち寄る。肉まんでもあればと思ったのだが、時間帯もあってホットスナックは軒並み売っていなかった。仕方がないのでカレーパンを買い、温めてもらって食べる事にした。

 ありがとうございましたー、という言葉を話半分に聞きながら、店を後にする。

 近くにある公園まで行ってから食べようかと思い、移動していた時だった。

 人間の同じような形の何かが、電柱の街灯に照らされて佇んでいるのが見えた。

 頭の天辺から爪先まで金属光沢を放つ銀色。人間でいう両目と額の位置にある銀色の発光器官と、身体を走る青い光のラインが夜闇に浮かんで神秘的な印象を抱かせる。

 ここ暫く、世間で怪獣や宇宙人といった空想上の存在だったものと同列で話題になっている、明らかに人の側に立って戦ってくれている存在────銀色の巨人、なのだが。


「え、小さい……?」


 その姿を見て困惑し、思わず声を出してしまった。

 そう、小さいのだ。

 (おそらく)彼が人々の前に姿を現す際は、約五十メートルもの巨躯を誇る。その大きさと膂力、そして光波熱線を以て、あらゆる脅威と戦うのだ。

 それが、百八十センチほどだろうか────とにかく人間と同スケールで、しかも何をするでもなく電柱の側でぼんやりとしているのだ。驚きもする。

 声で気付かれてしまったのだろうか、バッとこちらの方を向いた銀色の(巨)人と目が合ってしまった。


「…………」『…………』


 互いに動きが固まり、どれほどの時間が経っただろうか。

 銀色の人はおもむろに右手を肩より上の位置まで上げると、ひらひらと、控えめに手を振ってきた。


「え、ああ……あ、え?」


 意図を読み取ろうとするのに手間取ってしまい、ややあってから考え、挨拶をしているのだろうかという推測に至る。


「こ、こんばんは……?」


 近付く勇気はなかったので、その場から移動せず、尚且つ近所迷惑にならない程度に声を張って、会釈も付けてみる。

 頼むから意味が通じてくれ。相手にとって無礼じゃなくあってくれと何にでもなく願いながら。

 すると、相手もこちらと同じようにして、会釈のような仕草を見せた。声は出さなかったが。

 銀色の人はそれからすぐに空中に浮かび上がると、その光諸共、夜空に溶けるように消えてしまった。

 それ以降は、何も起こらなかった。


「……何だったんだ……?」


 消えた当人以外、誰も確かな答えは出せないであろう疑問を口に出すしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

街灯の下に佇んでいたもの 秋空 脱兎 @ameh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ