最終話
「俺はここから出たかった。この世界から出る扉をずっと探してきた。今、わかったよ。扉なんてどこにもなかったんだ」
カウボーイ・ビバップ「天国の扉」
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ベイ・ブリッジへ集まっていたパトカーも去って、我々は穴だらけになったマスタングのそばに立っていた。
私はポケットからチューインガムを出して口に入れた。
まだ身体中が痛い。
「市警本部まで送りますよ。連中の悪事を洗いざらいぶちまけてやるといい」
「キミ達にはずい分世話になったな」
ブリュエット氏は右手を差し出した。
その手を軽く握り返し、
「前にも言いましたが、それが商売なんです」
「車が壊れちゃったわね」と、ジェシィは言った。「弁償しなくちゃ」
そばで見ると、私の胸ぐらいまでしかない。
「保険があるさ」
私は答えてから、ふと思いついて付け加えた。
「そうだ。代わりと言っちゃ何だが、キミのレコードが出たら一枚送って欲しい」
「そんなものでいいの?」
「そんなものが欲しいのさ」
「ありがと。喜んで送らせてもらうわ」
私は二人をワゴンに乗せると、サムの隣へ乗り込んだ。
「さあ、行こうぜ」
二週間ほど後、私はサムの店で飲んだ後ぶらっと街のレコード店へ寄ってみた。
店員に訊いてみると、三日前に出たジェシィ・フロリアンのレコードは売り切れで、来週にならないと入荷しないとのことだった。
店を出て事務所の前まで戻ってくると、どこからともなくジェシィの歌声が聞こえてきた。
辺りを見回すと、反対側の路肩に停まったタクシーの中から聞こえてくるようだ。
私は道路を横切って行き、タクシーの窓を叩いた。
眠そうな顔をした運転手が、めんどくさそうにドアを開ける。
私は後部座席へ乗り込んだ。
「どちらまで?」
「どこでもいい、しばらくその辺を走ってくれ。この歌を聞いていたいんだ」
私は座席にもたれて目を閉じた。
営業用のお愛想を求めるには遅すぎる時刻だ。
「オトロ・ロコ・マス(また、変なのが来た)」と、仏頂面の運転手がスペイン語で呟くのを聞いた。
走り出した車から、サンフランシスコの夜にジェシィの歌声が流れ出した。
レコードが送られてきたのは二日後だった。
掃除屋稼業 令狐冲三 @houshyo
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