深夜散歩の生配信!? 

海星めりい

深夜散歩の生配信!?



「はーい! 始まりました! ぶらぶらチャンネル特別編 ミッドナイトウォーキング・第一弾(仮)!!」


 イエーイ、パチパチーと、自分の声で合いの手を入れる。


「と、配信始めたとこなんですが……大丈夫? これ? 映ってる?」


 コメント

 :映ってる

 :大丈夫よー

 :マジで暗っ!?


 いつもと違う配信時間なうえ、底辺配信者だから人が来てくれるか分からんかったけど、何人か見に来てくれたみたいだ。


「おー、サンキュー。教えてくれて助かる助かる。暗さは……言うてもまだ明るい方じゃない?」


 手に持つビデオカメラをゆっくりと回して、辺りを撮っていく。真っ暗というわけじゃなくてポツポツと明かりが見えるような状況だ。

 一応、ヘッドライトもつけているから何も配信出来ていない、という虚無配信にはなっていないはず。


 コメント

 :ええ……

 :人通りどころか、街灯すら少ないんですが?

 :何でまたこんな所を?


「日中の散歩動画じゃさ、やっぱ視聴者数が少ないわけよ。こっちとしては街の紹介とか出来て楽しいんだけど、ハプニングもないし面白さが足りないわけ」


 半分趣味とはいえ、正直収益化は行きたい。そのための起死回生動画が今回の配信というわけだ。


 コメント

 :そりゃあね……

 :散歩動画に普通面白さとかないわな

 :深夜の散歩の方がもっと面白くないのでわ?


「そう思うじゃん? それがそうでもないのよね、これが!!」


 コメント

 :もったいぶんな

 :帰るぞ?


「帰んないで!? シンプルに深夜散歩ってどうかな? って思い立って、少し前からテストがてら歩いてみたわけよ。カメラ無しで」

 取れ高探しってやつだ。今の世の中どこに何があるか分からないからな。


 コメント

 :あったわけだ


「そうなんだよ! カメラ回しておけば、バズり間違いなしっていうのがさ……こう、何個も何個も」


 コメント

 :嘘草

 :嘘乙

 :何個もは流石にないだろ……


「あるもん! バズりあったんだもん!! (甲高い声)」


 森の中の不思議生物を信じているかのように全力で叫ぶ。


 コメント

 :草

 :似てねぇwwwww

 :キモ声やめて?


「はい、ということでね。まぁ、あったわけですよ。だから生でやってみようと。一発目が動画じゃないのはヤラセと映像加工が疑われないようにするためです。じゃ、レッツゴー!」


 コメント

 :考えてはいるんだ

 :取れ高って精々酔っ払いぐらいだろ?

 :山から猪とか?


「そういうのじゃなくて――おっと? これは来たかな?」


 ぶらぶらと歩いていると肌に纏わり付くように空気が少し重くなる。

 カメラ越しでもそれは多少なりとも伝わったらしい。


 コメント

 :雰囲気変わった?

 :なんか悪寒が……

 :水音?


 コメントの反応を見てこれはいけると確信する。


「期待高まる深夜散歩一発目! なーんだ?」


 そのまま、何かの存在を感じる方にカメラを横に向けると、少し離れた所に全身を粘液のようなもので覆われた狼がグチュグチュと音を立てながらこちらを見ていた。


「ああ、うん低級妖魔だね。あんま珍しく無いな~」


 コメント

 :……ちょっと待って?

 :なんて?

 :作り物過ぎて草って書こうと思ったんだけどこっちに来てない?


「そりゃ、来るでしょ。妖魔なんだから」


 俺の事を見つけたのか狼型の低級妖魔は粘液をしたたらせながら、こちらへと走ってきていた。


 コメント

 :怖い怖い怖い怖い!?

 :逃げろって!?

 :なんで冷静なの!?

 

「あー、本来ならこの辺で陰陽師的な人達が来てくれると思ったんだけど来ないねー。今日忙しいのかな?」


 そう言いつつ、狼型の低級妖魔を一蹴りで消滅させる。映ってくれるのはいいんだけど、こっち来るのは困るんだよねー。


 コメント

 :は?

 :今、一瞬ぶれたかと思ったら消えた?

 :何したの?


「蹴って消滅させただけ」


 低級妖魔は脆いからな。しっかり見極めれば消滅させることは余裕だ。

 こんなもんじゃバズりにはほど遠いと思っていたが、なんかコメント欄がざわついていた。


 コメント

 :妖魔とか……フィクションでしょ?

 :……仕込みだろ?

 :仕込みって言え……


「仕込みとかして、バレたら問題でしょ? 」


 コメント

 :仕込みじゃない方が問題なんだよなぁ……

 :もう夜にコンビニ行けねえよ……


「繁華街とか人多いところなら大丈夫じゃない?」


 そんな人が多い所だと力を貯める前にやられちゃうからね。


 コメント

 :なに当たり前のように言ってんですかねえ……

 :ならセーフ……じゃねえんだわ


「んんー? ん? これはー?」


 コメント

 :なに?

 :今度はどしたの?

 :これ以上、なにかいらないんだけど……


「いや、この近くで位相いそう結界が張られたみたいだからさ。ちょっと行ってみようかと思って」


 わざわざ位相結界を張ったということはそれなりの大物がいるはず。映えそう。


 コメント

 :その単語を知ってる前提で話すのやめてもろて

 :どんどんオカルトファンタジーになってきたぞ

 :常識がぶっ壊れていく……


「はい、ここが位相結界前です」


 コメント

 :はい、じゃないが?

 :特に変わったところはないな


「位相結界はねー、認識したうえで入らないと分かんないのよねー。ということで、入っていくぅ!」


 現実世界と重なっている別の世界を構築することで、現実への被害を無くしている結界らしい。詳しくは知らんけど。


 コメント

 :世界がモノクロだ……

 :あっちで爆発してない?


 コメントで指摘されるの同時に俺も結界内で爆発を確認する


「おっ、ホントだ。ちょっと近づいてみようか」


 爆発した方に行ってみると、巫女服のようなものを着て呪符のようなものをもった少女と、青いゴスロリ衣装を着てステッキのようなものをもった少女がそれぞれ中級妖魔と中級魔物を相手に戦っていた。

 『同じ所に出るなんて運が無いわね!!』などという声が聞こえてきていた。


 コメント

 :初見です。トゥイッターじゃよく分かんなかったのできました


「お、初見さん来てくれてありがとー。トゥイッターからってことはちょいちょい話題になってる感じ?だとしたら嬉しいなー。あ、あと今はね、巫女さんが中級妖魔。魔法少女が中級魔物と戦っているところかな」


 初見さんにも分かりやすいように今の状況を端的に説明する。


 コメント

 :???????????

 :何言ってんだコイツ?

 :リアルタイムCG?

 :違うんだよなぁ……

 :これがまさかの現実なんだわ

 :何で一般人が位相結界内にいるの!?

 :お? なんか事情知ってそうなのが来たな

 :微妙に話題になってるからな

 :深夜の場末チャンネルだからそこまでじゃないけどな

 :そもそもこんなことコメントしてええんか?


「あ、勝ったね」


 呪符の一撃で中級妖魔ははじけ飛び、魔法少女のステッキから放たれる光線をくらったのか、中級魔物は綺麗に消滅していた。


 コメント

 :おー!

 :888888888

 :これで平和は守られたのか?


「そだねー。それぞれ中級を倒したってことはここ一月くらいこの近辺は安全なんじゃない?」


 コメント

 :一月なのか……

 :見てるだけで、悪寒がすごかったんだけどあれで中級?

 :なんか来たぞ?

 :うわっ!? 寒気やばっ!?


 コメントにつられて少女達の方を見て見ると、空間が歪んで位相結界内に新たな妖魔と魔物が現れた。どちらも人型ということは上級クラスだろう。


「あー、あれは上級妖魔と上級魔物かな?」


 視聴者に説明しつつカメラを回していると、現れた上級妖魔と上級魔物が陰陽師である巫女服少女と魔法少女に『我々は手を組むことにした』などと語っていた。

 散々、妨害されたことに腹を立てて協力することにしたらしい。

 『だったらこっちも協力するまでよ!』といって少女達は上級妖魔と上級魔物相手に戦うことを決めたようだ。


 コメント

 :あー、よくある敵組織合体パターンね

 :あの二人向かっていったぞ

 :一瞬でやられた!?

 :というか、こっちに――


 コメントを読むのをそこまでで止めて、飛んで来た少女達を受け止める。

 身体に行くダメージを肩代わりしたものの防護機能以上のダメージをくらったのか、服が一部破れており少々センシティブな感じになっている。

 やばいBANされてしまう。少女達が絶対に映らない角度にカメラを変える。


「当チャンネルは健全なチャンネルです!」


 コメント

 :草

 :それどころじゃないんよなぁ

 :むしろもっと映せ


「ダメですー」


 コメントに反応している間に受け止められた少女達が騒ぎ出した。『誰!?』とか『何者よ!?』とか。そんなこと言っている間に上級妖魔と上級魔物もやって来ていた。


「あ、別に気にしないで下さい。邪魔する気はないんで」


 コメント

 :このメンタルよ……

 :なんであんな化け物目の前にして平然としてんの?

 :受け止めた少女をその場に置くなwww


 邪魔する気は無いって言って、少女達からも離れたのに上級妖魔と上級魔物は俺を逃がす気はないらしい。

『まずはうぬから片づける』だの『その妙なものは何だ?』だのいきなり襲いかかってきた。


「カメラ狙うの止めて貰っていいですか?」


 配信用の高級ビデオカメラだから、これ滅茶苦茶高いんよ。壊されるのは勘弁して欲しいから飛んで来た拳を受け止めたんだけど、何故か妖魔と魔物だけじゃなく少女達までビックリしていた。


 いや、こっちがビックリだよ。

 襲われたら防ぐに決まってるでしょ?

 そしたら、『面白い!』とか『本気で行く!』とか言い出して、さらに攻撃を加えてきた。

 どれだけ止めてくれと言っても聞きやしない。言葉の通じない低級妖魔とかよりたちが悪い。


 ホント困るわー。

 言っても聞いてくれないので仕方がないから、思いっきりぶん殴ることにする。

 一撃で上級妖魔の上半身を消し飛ばし、その奥にいた上級魔物も同様に消し飛ばした。身体の半分を失っては存在を維持できなかったのか、そのまま二体とも消滅していく。


 コメント

 :ええ……

 :こんなあっさりでええの?

 :どう見ても人間が立ち向かっていい存在じゃないっぽいんですが……


 その後も結構な数のコメントが流れていく。よし! この路線は成功みたいだな。

 けど時間もいいところだし、この辺りで止めておくか。


「はい、というわけでー、ぶらぶらチャンネル特別編 ミッドナイトウォーキング・第一弾(仮)これにて終了です。お楽しみいただけたでしょうかー! 手応えあったので、もう何回かやりたいと思います、じゃあ、バイバイ!!」


 コメント

 :なーんでこれで平然と終われるんですかねぇ……

 :手応えって何の?

 :唐突な非日常に巻き込まんでくれ……

 :なーんもわからん

 :家から出なきゃ安全なんか?

 :ニート最強ってこと?

 :明日、会社の飲み会なのになんちゅうもんを見せてくれるんや……

 :止めちまえそんな前時代的な企業!

 :削除申請ってどうやるんだっけ……


 その後もコメントは続いていたが、配信を打ち切る。


「うん、普段よりコメント数、同接数、伸びてるな! 明後日の動画の準備したら寝ようっと!」


 翌日、別の意味でバズり散らかして、魔法少女や陰陽師、その他、海外の様々な勢力から接触されることをこの時の俺は知らない……。

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深夜散歩の生配信!?  海星めりい @raiki

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