転生トラック――時速19万8000kmでかます俺のドライビングテクニック【KAC2023】

Cランク治療薬

転生トラック――時速19万8000kmでかます俺のドライビングテクニック

「あの日お前と出会ったのも深夜に散歩していた時だったよな」

「ええそうね健太。でも、あの日からあなた一度も私の願いを叶えてくれていないわ、私ぷんぷん」

「そりゃそうだろ、いくら俺が深夜が好きだっていったってお天道様の下を歩きたいさ」


 深夜の長距離トラックぐらいしか止まっていないSAサービスエリアで俺は自称女神と話していた。こいつの姿は誰にも見えない。だからこいつと話すのは深夜の散歩の時か俺の愛車の中でぐらいだ。深夜の配送業をやっている俺からすると眠気予防にもなるし、退屈防止にもなるし、願ってもいない存在だ。


「さっ、煙草も吸い終わったし、お仕事再開するかねえ」

「えっ、健太次こそ人をいてくれるの」

「だから俺の仕事は荷物を運ぶことだっての」


 もう何度やったかわからないやりとりを繰り返す。それでも大分マシになったものだ、最初は経験値だの転生だのスキルだの言ってたからな。


「自称女神のアイリスさんよぉ、やっぱお前女神というより悪魔なんじゃねえのか?」

「それはない。私は女神。そして人をくとそのものの魂はあるべきところに行って貴方は経験値を得るWINWIN」

「ウィンウィンじゃねえよ、俺捕まるじゃねえか。馬鹿言ってねえで行くぞ」


 こうやって休憩をとるには、理由がある。疲れをとるのは当たり前として次のトンネルが難所なのだ。いや、難しいことはない何の変哲もないトンネルだ。ただ、事故率が多い。験を担ぐわけではないが、そういうわけで休憩して深夜の散歩をしていたわけだ。

 運転を再開して等間隔のポールが眠りを誘う。なんだこの眠気は。このまま例のトンネルにさしかかる。


「おいアイリスなんか言え、このままじゃ間違いをおかしそうだ」

「敵性反応を確認。前方にでますっ」

「なんつった?」


――ドンッ。


 鈍い音を聞いた。猫や小動物じゃねえ人のような感触だ。右足で即座にブレーキを踏む。トンネルで止まりたくねえな。ハザード焚かなきゃ、いや救急車か。しかし、なんでこんなとこに人が。


 ドアを開けて飛び出す。後方にばあさんが轢かれて倒れていた。やってしまった。そのばあさんが透明になっていき消えていった。


「アイリス今そこにばあさんいたよな」

「いました。わたしは敵性種族の撃破を目視しました」

「だよなあ。なんでそれで消えたんだ?」

「健太はおかしなことを言いますね。経験値になったのでは?」

「いや、俺まだ異世界脳じゃないから」

「あ、データ来ます。敵性種族ターボばばあ撃破。おめでとうございます。スキルポイント獲得です。やったね。それと使用武器転生トラックが強化され魂だけでなく生体ごと転生させれることができます。無機物もだいじょうぶい。今後は人をはねても証拠が残りません。やりましたねっ。健太はやる気がないので生存能力を高めるために割り振っておきましょう」

「とりあえずトラックに戻るか」


 のろのろとトラックを加速させる。


「後方から2機敵性反応です」

「やべ、追突するぞ」


 クラクションが響く。絶叫にも似たそのクラクションはクラクションごと虚空に消えた。


「ついに健太が人を転生させた」


 横目で見るとふるふると熱っぽい視線をアイリスが送ってくる。


「あっ、あっ、でちゃう、でちゃうううう~~」


 ぽんっと本が2冊アイリスのいる助手席に落ちた。


「それはなんだ」

「転生後の転生した人の人生の履歴が載っています。あ、ハッピーエンドみたいですよ良かったですね」

「つまり俺は2人の人生を終わらせたと」

「健太終わらせたんじゃないです。始めさせたんですよ。誇らしいお仕事です」


 それから1ヶ月何事もなく過ごした。いや、あのトンネルで車ごと消した2人はトンネルの怪異としてテレビでも騒ぎ立てられた。俺は自身に追い詰められていった。


「もっと気楽に考えてっ、よっ神の代行者!」

「うるさいっ悪魔」


 寝不足が続き運転が荒れる。俺は深夜がいやになり日中の国道沿いで荷運びをやっていた。そんな折り、前方のトラックの荷がほどけて反射的に避けた俺は対向車線に飛び出していた。そこには警察無線を飛ばしていただろうパトカーもいて……俺はパトカーごと虚空に存在を消していた。何台飛ばしただろう。助手席にどさどさっと本がでてくる。


「あっ、ちょっと本が多くなってきたから出現ポイントを荷台に変えるね。これで100人はねてもだいじょうぶい!」

「だいじょばねえ!」


 そういっている間も本にしまくってる。

 どこか……誰もいない場所に。

 そう思った俺は普段なれた高速道に乗り入れる車線を選んでいた。

 ヘリの音がする。


「いやったねスタンピードだ! 戦おう!」

「戦おうじゃねえ逃げるんだよ、あーっ逃げてどうすんだ俺」


 俺のトラックをパトカーが何台も追尾している。

 頭を伏せたらクラクションが鳴った。


「どうしたらいい? どうしたら?」


 迷っている間に前方にもパトカーが道路を塞いでいる。


「塞げてねえんだよっ、もう終わりか……」


 諦めた俺は高速から壁に向かった。壁が異世界に飛ばされる。俺はそのままトラックごと地上に飛び降り地面と激突して気を失った。


「健太っ、健太起きてる? やっほーい」

「アイリス日中は起こすなってなんども言ってるだろ」


 ああ、なんだ夢か。こんなに浮遊感に囲まれてあれは悪い夢だったに違いない。またベッドで二度寝して……。


「浮遊感??」


 窓の外が暗い……いやこれは?


「宇宙?」

「そうだよー地球ごと転生させちゃった。健太やるうぅ」

「はははっははは」


 もう怖いを通り越して笑えてきた。俺は心底笑っていた。


「なんで生きてんだ?」

「身体強化にスキル割り振ったからねえ。すごいでしょう。えっへん」

「まあいいや、宇宙来てみたかったんだよな」


 ドアを開け、トラックの上であぐらをかく。


「こりゃすげえ」


 仰向けに倒れたら星々の数々が見えた。

 後ろを振り向く。トラックの荷台から数多の本が漏れ出ている。さながら彗星のようだ。時速19万8000kmでトラックは進む。


「健太ぁ、次はどうする?」

「そうだな、惑星は飛ばしたし、次はあれしかないんじゃないか」

「さっすが健太。でもちょっと方向が違うんじゃない?」

「何のためのハンドルとアクセルよ、まあ見とけって俺のドライビングテクニック」


 健太とアイリスはトラックに乗り込む。前方に見えるは目的地だ。


「さあ勝負だ、ブラックホールっ!」


 全てを飲み込む暗黒に全てを飛ばすトラックが挑もうとしていた。

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