夢詠姫は深夜の散歩で夢を読む

三雲貴生

一話完結


 異世界に転生され予知夢の能力を発現した私は、その能力を買われ、勇者一行に同行した。


夢詠姫ユメ

「お兄ちゃん」


 お兄ちゃんは勇者さま。私より4つも年上で、私を守って魔物と闘ってくれる初恋の人。


「あれが魔王城だ。やっとここまでたどり着いた。魔王を倒せば、夢詠姫おまえと一緒に田舎で暮らせる」

「それは素敵ねっ!!」


 プロポーズの言葉は「お前のために魔王の首を捧げる」だったっけ? 「首はいらないよ」勇者パーティのみんなにも祝福され、あとは魔王を倒すのみだ。


「予知夢は見るか?」

「ごめんなさい。魔物の村に入ってから全く夢を見ないの。魔素が濃い為か? 誰かに邪魔されているのか? 私自身が不安なのか? わからないわ」


 勇者一行わたしたちは、最終決戦のため魔物に化けて村に潜入している。今の私は角の生えたサキュバスだ。お兄ちゃんはライオンさんの剣士だ。私たちは手分けして魔王の情報を集めている。あたり一面敵だらけの状況であるが、ふたりきりの深夜の散歩デートで気分はうきうきだ。


 魔物たちの行動にある流れができていた。お兄ちゃんがそれを見つけた。私としては魔物の屋台に興味があるんだけど仕方ないよね?

 悪魔の首の像が並ぶ悪魔神殿を抜けると、そこには有翼の悪魔たちの軍隊が隠されていた。たった今飛び立った悪魔たちは、そのまま人間の村を襲うのだ。今すぐこれを止めなければならない。でも魔王を倒すことが最優先事項だ。悪魔たちに気づかれるわけにはいかない。


「一旦帰って仲間と合流しよう」

「そんな──深夜のデートはおしまい?」

「おい」

「ダメ? 明日死ぬかもわからないんだよ? 羽目を外したらダメ?」


 私の必死の説得のおかげ? で魔物の屋台でしばらく仲間からの連絡を待つことにした。急いでも仕方ないよね?


「いっしょに『悪のりんごあめ』食べましょう!! 甘くってお兄ちゃんの元気な歯を虫歯にしますよって……」


 別の屋台へ移動して


「獣たちのはちみつワタアメ食べましょ!! あなたの愛人のぱ○○に塗って、ま○○に塗って、か○○の世界へ誘いますよだって……」


夢詠姫ユメ、とても破廉恥です」

「きゃっ忍者娘カナタか。情報収集では一番早いよネ? 気を利かせてヨ。もっと遅くても良かったのにネ」

「壁一枚先に魔物が跋扈ばっこするこの状況で、性欲が働くとは、あなたの心臓には猛獣の毛が生えているのでしょうね?」

「ハエテナイヨ。つるつるだよ?」


 お兄ちゃんがブーと吹いた。ナニか別のものを想像したみたい。


 忍者娘カナタは隠密能力が高い。魔物の姿に偽装もせず、魔物の村すべての建物を調べてきた。魔王城には盾使タンク魔法姉妹ハットたちが向かっているそうだ。魔法姉妹は三姉妹だ。長女のハット。次女のバット。三女のパット。長女は魔法使いの帽子が似合う年増の美人さん。次女は不良。三女は胸を気にしている。ハイ説明終わり。


「嫌な予感がしますね」馬の魔物の姿で現れた男は聖職者モンク、回復の得意なハゲ。私は自己回復があるから一度も回復の恩恵を受けたことがない。気持ちいいそうだ。


「そのワタアメ美味しそうですね?」

「あげないわよ」

聖職者モンク、情報は?」

「ハイ。魔物たちを数匹かるく尋問してきました。明日、魔王の誕生日だそうです」


 こいつは聖職者のくせに、人間以外に慈悲がないのだ。敵に回ると恐ろしいひと。


「明日の魔王の移動経路を探ろう!!」

盾使タンクが調べています」

「そうか、アジトへ帰ろう」

「ええー、屋台っ!!」


 私たちの深夜の散歩デートは終わった。



  <>  <>  <>



 明日の魔王襲撃計画の準備は終わった。今ごろお兄ちゃんは魔女三姉妹シスターズの魔力供給を受けているはずだ。女の子三人に密着されても──激おこ。

 

 勇者の魔法保有能力は高い。でも太陽の恩恵を受けるお兄ちゃんは、常に深夜の魔物の世界では、魔力を供給できない。そこで、三人の魔力タンクを同行しているのだ。


 私は眠れない。夢詠姫である私は眠ることで夢を詠む。夢はかならず予知夢だ。私の夢は実現する。それが発動しなかったことは、今まで一度もない。

 

「まずいんですよ本当に──」


 予知夢さえ発動すれば、いつどこでどのように魔王を討伐できるか、知ることができる。


「眠れないよ──お兄ちゃん」


 不安だ。今まで味わったことがないほど不安だ。もし魔王討伐に失敗して、お兄ちゃんの身に何かあれば──。怖いよ」


 サキュバスは怖い夢を見せる。私はサキュバスの偽装をしたのは、それを笑い飛ばすため。逆効果だったのかな?

 

「ここに居らしたのか……姫っ!!」


盾使タンク


「眠れませんか?」


 タンクは牛の魔物の偽装をしている。タンクは異世界での私の父だ。お父さんと呼んだことがない。小さい頃、私に夢詠姫の能力が発現し、それから姫と呼んで敬ってくれる。お兄ちゃんと出会うまで、私が頼りにしていた人。


「ねえ──少し夜道の散歩をしない?」


「そうですね。少し歩きましょう」


「ねえ。タンク」


「なんでしょう?」


「パパと呼んでほしい?」


「……娘ですから当然、そう願いますね」


「夢詠姫って嫌な能力よね? 私の父は──魔王に殺されるの。だから、あなたを父と呼ばない」


「ですね」


 私の能力は予知夢ではなかったのだ。夢が現実になる能力。だから私は不安で眠れない。

 

「ほんとうはね。私、夢をみたの。勇者が深夜の魔物の森で、八かしらの龍にズタズタに引き裂かれて死ぬの。ショックで私も死ぬの。勇者を失った勇者一行なかまは、散り散りに逃げる。父は、お父さんは、私の屍を守ってココで死ぬの。この場所で!! ここよ……。わーん」


 私は父に抱きつき泣いた。



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 魔王は儀式の為そこにひとりで現れた。

 

 勇者タイヨウは、太陽の剣をかざし魔王に立ち向かう。


 魔女三姉妹シスターズの魔力供給では、剣の本当の能力が発揮できなかった。


 勇者は、剣のみの物理攻撃で魔王に立ち向かった。


 時間がじりじりと過ぎてゆく。


 八かしらの龍が魔王に助太刀した。


 勇者の鎧は7度の死ぬほどの攻撃を防ぐことができる。

 

 龍の攻撃が勇者の体を8度痛めつけた。


 夢詠姫の悲鳴が上がる。


 勇者の部分を拾い集めようともがく。が急に胸を抑えて死んでしまった。


 聖職者モンクが、勇者の復活を断念した。


 忍者娘カナタが、盾使に一緒に逃げようと促すが首を縦に振らない。

 

 盾使が姫の亡骸を背負い仲間を逃がす。


 魔女三姉妹シスターズが慌てて飛行魔法を発動させた。


 魔王の剣が盾使の喉を突き刺した。

 

 忍者と聖職者と魔女姉妹は、逃げ切った。

 

 帰り道で魔女三姉妹シスターズの次女が弓矢に殺された。

 

 人間の村にたどり着いた時、勇者一行は4人に減っていた。



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 次女の死体に姉と妹が泣いた。

 

 忍者娘カナタは呆然と立ち尽くす。

 

 聖職者モンクは言葉を紡ぐ。

 

「黄泉の国に行き、死んだ仲間を復活するしか方法がありません」



 あと一歩で、魔王を倒せると思った。

 

 だがそれは叶わなかった。

  

 聖職者モンクたちは、黄泉の世界から勇者たちを救出するために新たにパーティを組織する。

 

 

 夢詠姫はそれも予知していた。

 


 ─了─


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