第13話 ロゼ お姉ちゃんごめんなさい...

ポートランド公爵夫妻は愛娘のロゼのお見舞いに来ていた。


まさか、ロゼが夢も希望も無い聖女になっていようとは今の今迄知らなかった。


マリアとポートランド家が揉めるのを嫌った王家がわざと事態についての報告を遅らせたのもその原因の一つだ


「ロゼ...本当に大丈夫...変わり果てて、ううっ」


「何でお前が聖女になんてなっているんだ! 話は王より聴いたが、何て馬鹿な事をしたんだ!」



今日は私のお見舞いにお父様とお母さまが来てくれた。


だけど、さっきから泣いてばかりいる。


当たり前だよね!


私がこんなんだからさぁ




「お父様にお母さま、思ったよりは元気ですからご安心下さい...」


最近では、寝たきりだけど、ポーションを飲んでさえいればこうして静かに生活が出来るようになってきた。



「だけど、貴方の女としての人生は終わって...ううっ」


「お母さま泣かないで...お父様御免なさい、私は聖女だから子供が産めません...孫は諦めて下さいね...」



「そんなのは構わんよ...お前が王子と婚約したから遠縁から養子を貰う事にした、ポートランド家は潰れないから安心しろ」


「そうですか...良かった!」



「本当にごめんなさい...」



「もう済んだ事だ気にするな!」


「ええっもう良いのよ...もう」



何も言わないで泣いてくれて...何も言わないで抱きしめてくれる...家族って良いな..


私はこんなにも幸せな中に居たのに、何も持ってないお姉ちゃんから「沢山」の物を取り上げたから罰があたったんだ...


こんな子、女神様が幸せにしてくれる訳ないわ。




お姉ちゃんと私は「お父様は一緒だけど、お母様は違う」


そう、お姉ちゃんは先妻の子で、私は後妻に入ったお母様の子...


お姉ちゃんのお母様は、政略結婚した相手だった...


その時ポートランド家は恐慌でお金が無くなり没落寸前だった。


その時に支援を申し出たのがお姉ちゃんのお母様の実家だった、支援の条件がお互いの子を結婚させ縁を繋ぐ事だった。


愛の無い結婚だったから「お互いに愛していない」ただ一緒に暮らすだけの生活だったらしい。


ただ、貴族である以上子供は作らなくてはならない。


そうして出来たのが、お姉ちゃんだった。


私の小さい頃の記憶では、もう、お姉ちゃんのお母様は死んでいて、お姉ちゃんはお父様に嫌われていた。


お父様曰く、「お姉ちゃんのお母さんは凄く嫌いなタイプだったらしい」 その嫌いなお姉ちゃんのお母様に似ているお姉ちゃん....嫌いなのは当たり前だ。



私が新しいドレスを買って貰っても、お姉ちゃんは買って貰えない。


食事の時も、私がお父様やお母様と一緒に食事をしているのに対してお姉ちゃんは使用人と食べていた。


何時しか私は、お姉ちゃんを使用人と同じ様に扱う様になった。



そんな私でも、お姉ちゃんに敵わない物があった。


それはお姉ちゃんのお母様の遺品だ...沢山の宝石や珍しいオルゴールを持っていた。


どうしてもそれが欲しかった私は、しょっちゅう泣いてお母さまやお父様に泣きついた。


私が泣きつく度に...お姉ちゃんの大切な物は減っていった。


そして


「お父様、これだけは勘弁してください...お母様が私に残してくれたのはこのオルゴールで最後なんです」


流石にお父様も躊躇していた。


だけど、私が駄々をこねると...無理やりお姉ちゃんからむしり取り私に寄こした。


あの時のお姉ちゃんの目は今なら解る。


全てを失って絶望した目だった。



その日からお姉ちゃんは誰とも話さなくなった。


ひたすら本を読んで、ひたすら魔法の勉強をしていた。


もはや自分にはそれしか無い...そう思わせる程、朝早くから夜中まで...死ぬんじゃないかそう思う程に...



だが、私は此処でも最低の人間だった。


どう見ても成績が優秀になりそうな、お姉ちゃんに腹を立てた。


何か一つでも自分よりお姉ちゃんが上になるのが嫌だった。


だから、お父様やお母さまに頼んだ...「学園にお姉ちゃんを通わせないで欲しい」と...



「お前は悪いが学園に通わせない...」



それを聞いたお姉ちゃんは絶望していた。


部屋に閉じこもり泣いていた記憶がある。



これで、お姉ちゃんの人生は終わった。



暫くしてお姉ちゃんは別人の様になっていた。



「貴族の義務である学園にも通わせて貰えないなら、私は貴族では無いのでしょう? 此処を出て行きます」


「待て」


「待つ必要はありません...貴方等は父ではありませんので」


そう言って家を出て行った。


馬鹿なお姉ちゃん...家を飛び出したら、もう貴族じゃない...終わったわ。



そう思っていた。


その後は、私はお姉ちゃんなんか忘れていた。


社交界にデビューも果たして周りの人間は私にチヤホヤする...当たり前だ私は名門ポートランド家の令嬢なんだから。


そんな、私が好きになり憧れたのがフリード様だった。


貴族の少女なら誰しも王太子との恋愛...憧れるだろう...


運が良い、ポートランド家は公爵だ、充分婚約者候補になれる。


私は暇さえあれば、フリード様を追い回した。


話しているうちに、フリード様も私に好意を持ってくれる様になった。


何回も逢瀬を繰り返し、フリード様が愛を囁いてくれるようになった。


ようやく私の恋が実る、そこ迄たどり着いたのに....



お姉ちゃんが現れた...しかも、「聖女」になって、王妃様がまるで自分の子供のように傍らに置いている。



「聖女」の地位は場合によっては王族以上...「私は復讐されるのではないか?」と怖かったが...お姉ちゃんは何もしなかった。



必要以上に話もしないし構っても来ない。



ホッとした...だが違った。


私の、私の愛したフリード様の婚約者にお姉ちゃんはなった。


許せなかった...自分の事は棚に上げて...



相手は聖女...もう誰も当てには出来ない、フリード様に「ある事無い事吹き込んだ」



その結果が...これだ。


こうなった時に私はお姉ちゃんを恨んだ。


だけど...私はお姉ちゃんから奪って来たけど、お姉ちゃんは私から何も奪っていない。


恨んでいいわけが無い...お姉ちゃんの全てを奪って、婚約者まで奪って、そして「聖女」の地位まで奪った結果がこれだった。



あそこで、フリード様を奪わなければ、私は他の人と結婚してポートランド家を継いで家族で仲良く暮らせた。



今の私はどうだろうか?


家族の愛を独り占めして、お姉ちゃんの大切なオルゴールや宝石も私の物、大好きなフリード様に聖女の地位、全部私の物だ。


全部私が奪ったままじゃないかな...




全部、奪い取った結果...が今なんだから...


全部奪い取った私が...何も取らなかったお姉ちゃんを恨む事はできないわね...



「ロゼどうしたの?」


「うん、私は凄く悪い子だったんだ...そう思っただけだよ」


「お前は悪い子じゃない」


「お父様...良いよ...私は悪い子だよ」



「貴方が悪い事したそう思うなら、私が女神様に謝ってあげる!」


「私も謝るぞ」



「ありがとう...お父様、お母さま」



私は奪い過ぎたんだ...きっと女神様も許してくれない。


だけどね一言だけ謝りたい、「お姉ちゃんごめんなさい」


ようやく、私解ったのよ...もう遅いけどね...




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