第12話 尊女

治療院の窓から外の景色を見た。


私が此処に来た時は、果物や串焼きを売っているお店が全部無くなってしまったわね。


気がつくと治療院の周りがまるっきり変わっていた。


お金と権力の力は凄いわね!


比較的、小さなお店が密集していた筈なのに、元からあるのは冒険者ギルドだけ...あとは全部違うわ。


まぁ私には関係ないんだけど...元の方が買い物が楽で良かったわ。


帝都だからそれでも楽には変わらないんだけど。



「マリア様、お久しぶりでございます!」


「ああどうも...?」


何で?何で?教皇様が普通のお爺さんの様に挨拶をしてくるのよ!


可笑しいでしょう? 普通に考えて今の聖女であるロゼの傍に居る、それが当たり前の筈なのに。


「驚かれましたか? 新しい教会が此処に出来たので来たのですよ! そうだ、教会でこれからささやかな式典とその後に会食をしますからマリア様も来て下さいな」


「解りました、後でお伺いさせて頂きます!」



もう聖女では無いけど、治療師も教会の半分管轄だから断れないわね。



「それではお待ちしております!」



今の私は聖女でも無いし、普段着で良いわよね?


診療が終わってからそのまま顔を出しにいった。





ナニコレ? 嵌められた。


教皇様が正装で、その横には帝王ルドルフ三世様が居るじゃない?


これが、ささやかな式典の訳がない。


ちょっとした社交界のパーティー、それ位の準備が成されている。



「これはどういった事でしょうか?」


「それは私からお話しします! 宜しいでしょうか?」



「教皇様、ローアン大司教様にも伝えましたが、今は自由を生まれて初めて謳歌しています...そっとして置いて貰えませんか?」



「大丈夫です! 教会も帝国も決してマリア様を縛るつもりは御座いません! 便宜上! あくまで便宜上「尊女」という地位を貰って頂けないでしょうか?」


「便宜上?」


「はい! マリア様は聖女を辞めてしまいましたが、普通は歳いってから辞められます...その場合は普通なら「元聖女」と呼ばれながら尊敬される人生を送ります!」


「それがどうかしたのですか?」



「ローアン、元聖女様の地位はどの位にあたりますか?」


「御恐れながら、教皇様より上になるのでは無いでしょうか? 何しろ聖女様として引退まで尽くされたのですから」


そんな、「聖女」って辞めてもついてくるものなの?


確かに歴代聖女は、辞めた後でも権力があった気がする。


聖女テレジア様が王を諫めたり、場合によっては一喝していた話しは有名だ


「ですが、私は全うしないで、ロゼに引き継いだだけです!」


「そこで困ったのです...聖女の資格はロゼに引き継がれました...ですが歴代聖女でも数人しか使えなかった「パーフェクトヒール」を使うマリア様をどう扱うか! それで帝王と話し合いの上に「尊女」という地位を設けたのです...名誉職だと思ってお受け取り下さい」



「あくまで名誉職であって...縛る事は無いのね!」



ああっこれは受け取らないと「元聖女様」の方にされて大変な事になるわね。


半分は強制...そういう事じゃない、仕方ないわ。



「はい、それは私とローアンが約束します」


「なら、良いわ」



「有難うございます!」



そう言いながらも教皇様に帝王様まで居るのだから...絶対に名誉職だけそういう事では収まらない筈だわ。


「元聖女」って呼ばれて崇められるよりはまだマシ、そう考えるしかないわね。




「それで、帝王である、ルドルフ三世様も何故此処に居るのかしら?」


「私の方は「尊女」の地位を正式に帝国が認めるという立ち合いと、近くに騎士団の詰所と帝都警備団の本署を作ったので挨拶だ、そこの責任者も後日行く」



騎士に警備団ならお得意様になりそうだから良いわね。



「それはご丁寧に有難うございます」


「あと、もう一つ相談があるのですが!」


やはり、何かあるのですね....



「王都に張ってある結界と同じ物を是非、帝都にも張って頂きたいのです!」



あれですか? まぁ良いのですが大丈夫なのでしょうか?


本当に大した物じゃ無いんだけどな...



「同じ物で良いなら張りますが...あれそんな大した物じゃないですよ? ワイバーン位までなら簡単に防いでくれますが、本物の龍種相手じゃ1日位しか耐えられません」



あの結界はそこ迄の物だったのか?


ワイバーンが入って来ないだけでどれだけ助かるか解らない、これで帝都の人間がワイバーンやハーピーに襲われたり攫われる事が無くなる、それらの脅威から人を守るために帝国は「竜騎士」を使って警備しているがそれが必要無くなるのだ。


龍種なんてまず来ることは無いが、それを1日食い止められるなら、騎士団の派遣が間に合う。


王国の自慢の結界は、帝国が考える以上の物だった...こんな物国なら何処でも欲しがるし、とんでもない価値がある。



「充分です!是非お願い致します!」


「私は今は聖女じゃありませんから、お金取りますよ? 1人分の治療費と同じ、金貨1日1枚..1か月で30枚...ねっ高いから辞めた方が良いと」



こんな物に金貨30枚、まず断るでしょう? 凄く勿体ないよ?



「払いますから是非お願い致します!」


たった、1か月金貨30枚? 500枚だっていや、竜騎士を他に回せると考えたら2000枚以上の価値がある。


あれっ...龍種、空だけじゃないじゃないか、最早お金に換算など出来ないじゃないか。



「そうですか? それなら構いませんよ!」


「有難うございます...本当に有難うございます!」



これを感謝しないで、何を感謝しろって言うんだ、帝都防衛全部が1日金貨1枚..こんなの無料みたいな物だ。


国宝級の宝石を銅貨1枚で売っている様な物だ。



「クスっ! 帝王様は可笑しな方ですね...お金を貰うのは私ですよ? 有難うございます」




やはり、マリア様こそが本物の「女神の御使い」なのだ、常人なら魔力が枯渇する程の結界を簡単に張ってしまう。


歴代聖女の中でも屈指の魔力保持者、この方を置いて「聖女」等語るのはおこがましい。



帝国や教会は「尊女」を「聖女」より上の存在として認める方針を固めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る