第9話 マリアを中心に街は変わる

可笑しいわ、何が起こっているのかな...


私が治療を行っている治療院の周りの家が片端から取り壊されていき空き地になっていく。


此処は冒険者ギルドの横、一等地だ、商売するには最適な土地だ。


普通に考えてそう簡単に土地を手放す訳は無い。


黙っていても沢山の人が通る場所、商人にとっては喉から手が出る位欲しい場所だわ。


そう簡単に土地を手放す訳無いわよ。


本当に可笑しいわね...うちに向って右側から始まって、道路を挟んで反対側の土地まで全部が一斉に取り壊しを始めた。


こんなにも沢山の土地が一斉に取り壊されていく。


中にはまだ新しく綺麗な家もあるのに本当に可笑しいわ。


もし、この辺りで大規模な工事が行われるなら家にも報告が来る筈だし、この場所も「立ち退いて欲しい」そういう話が来る筈。


だけど、私はそんな話は聞いていない、考えても仕方無いわね..解らない物は解らない、私はただ今迄通りに治療を続けるだけだわ!



知らないうちに周りの家や店が壊されていくのに、私には原因が全く解らない。


見ていれば何か解るかも知れないから、その様子を静かに見ていた。


すると1人の老人と目が合った。


見覚えがある...誰だっけ?



「お久しぶりです! マリア様!」


あっ、あの顔は確かローアン、ローアン大司教だわ、だけど何でそんな教会の実力者がこんな所に居るのかしら?


確か何時も、教皇様の傍に居たはず...私はもう聖女では無いわ、「様」位付けた方が良いわね。



「ローアン大司教様、お久しぶりです」


「聖女様に様等付けられると照れてしまいますぞ」


「今の私はもう「聖女」ではありませんので...」


「経緯はもう聞いております、立派になられましたね、パーフェクトヒール迄使えるマリア様を聖女と思わぬ者はおりません! ですが、聖女の地位その物は、あのロゼに奪われてしまったのですね!」


別に奪われたそういう訳では無いのですが...



「妹を酷く言わないで下さい...婚約者が妹を選んだのでそのまま、聖女の地位を押し付けた、それが正解です」


「何とお優しいのでしょう! マリア様の地位は今後考えるとして尊い人なのは間違いないです...ご安心下さい!」



只の治療院の治療師、その方が凄く気が楽なんだけどな...




「それでローアン様、もし知っていたらお教え下さい! 何故私の治療院の近くの土地が更地になっていくのでしょうか?」



「ああっ、それはですね...隣の土地は教会側で買いました、マリア様がこちらに来られたと聞いたのですぐ傍に教会を作る事にしたのです」



あれっ..今何と言ったの? 私の為に教会を作る...そう言ったの?



「えーと私が居るから教会を作る? 何故ですか?」


「貴方様はこれからも沢山の命を救う方です...教会は貴方が困った時に助けられる様に此処に教会を作る事にしました、手が必要な時やポーションが必要な時は何時でも無料で提供しますお声掛け下さい」



私は聖女で無いから、ちゃんとお金を貰っていますよ、そんな私に無料提供、教会が何でかな?



「あの、私は治療師で、聖女では無いのでちゃんと報酬を貰っています」


「金貨1枚ですよね? 聖女が起こす奇跡の様な治療であれば、それは無料みたいな物です」



金貨1枚は充分な大金の筈だわ、それが「無料みたいな物?」聖職者だから感覚がずれているのかな?



「教会を作るだけなら、こんな大きな土地にはならないと思うのですが」


「私の知っている範囲では、反対側に騎士団の詰め所、その横には帝都警備団の本署が出来るそうです...他にも出来るそうですが私も解りません」



えーと、何それ、何でそんな重要な施設が此処に移って来るのよ、それ全部私のせいなの?



「それ全部、私が原因とか言いませんよね?」


「何を言っているのですか? 全てマリア様絡みなのは間違いないですよ?」


「そうですか? ただの治療師の為に大袈裟ですね?」



確かに腕は一流ですが、「聖女」じゃ無いのに、大袈裟すぎますよ。



「ただの治療師ではありません...聖女と言われるのが嫌であれば、「世界一の治療師」そういう呼び方になると思います」



「大袈裟です」



この方は何時もそう言うが「パーフェクトヒール」を使える治療師等他にはいない。


しかし、「聖女」と呼ばせて頂けないのであれば我々はこの方を何とお呼びすれば良いのだろうか?


教皇様や帝王と話しをする必要がありますね。



「大袈裟でも無いと思いますが...では用が御座いますので私はこれで失礼します」


「あっ!お引止めして申し訳ございません」



ローアンは軽く頭を下げるとその場を立ち去った。



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