第7話 水霊の儀

この国には水霊の儀という儀式がある。


聖女が行う儀式の一つだが、苦行に近い。


どう考えても今のロゼには出来ない。


だから、俺は無理を承知で母上に頼むしか無かった。。


「今のロゼには無理です! 辞めさせて下さい!」


「私もそう思います! ですがロゼは聖女なのです!だから辞めさせる訳にはいかないのです!」


「これは、わが国だけの事では無い...なので国王の儂でもどうする事もできんのじゃ...場所を王宮の中の礼拝堂にした、これが儂のできる精一杯じゃ」



確かに破格の条件なのは解っている、解ってはいるがそれでも今のロゼには耐えられない。


下手すれば、これが原因でロゼが死んでしまうかも知れない、そう思ったら引き下がる訳にはいかない。



「父上も母上も、今のロゼの状態をご存知でしょう? 髪は色が抜け落ち白くなり、体も痩せ細っています...そして毛布をかぶりベッドからはトイレとお風呂の時間以外は動かないのです! 1人でいる事を恐れて、常に傍に私かメイドが居てどうにか生活をしている状態です」



この状態は、母上も解かっている筈だ。


こんな状態のロゼにそんな事が出来るかどうかは考えたら解る筈だ。



「解っているわ! だから殆どの責務は負わせていません! 本来なら難病や大きな怪我をした者の治療もロゼの仕事なのですよ? 私も王も厚顔にも国の為に戦い怪我した者に上級ヒーラーに治療を命じています! この間はバルマン侯爵家の次男ホルンが国命で地龍の討伐をしました、その際に片足、片目を失う大怪我をしたのです! マリアなら元通りに治せたのに、上級ヒーラーだから失ったままです、未来の英雄を国は失ったのです!」


「バルマン侯爵家の長男、リュートは家督の相続権をホルンに譲り家を出たそうだ...その理由が解るか?」


「あのリュートがまさか! 何も聞いておりません!」


「「あの時に殴りつけてでも王太子を説得するべきだった! 本物の聖女様を追い出し偽者を聖女にしたから弟は片端になるはめになった、弟の未来を壊したのは俺だ」そう言って家を去ったそうじゃ!」



「そんな事があったのですか...」


駄目だ、そんな事があったのなら、絶対に受け入れてはくれないだろう。



「出来ぬ物は仕方が無い...儂も愚王と呼ばれようが、お前のした責任を負おう! だが、今回の「水霊の儀」はその昔、勇者様の無事と世界の平和を祈願した聖女の祈りから始まった、神事じゃ! この国ではなく「世界の平和の祈願」じゃ辞める訳にはいかぬ...教皇様すら来られるのだ」


「ですが、今のロゼに3日間もの間断食して祈り続ける等、死ねという様な物です..」


「その祈祷場所を本来の「水霊の洞窟」から王宮の教会に変えるだけでどれ位苦労したか解りますか? 沢山の打ち合わせをしてようやく教会に、他国の王に認めて貰えたのですよ! その際には「今の聖女は力が無く体調も悪い」そう伝えてようやくです...王である貴方の父も頭を下げました...これで死んでしまうなら諦めるしかありません!」



本来の「水霊の儀」は女神を信仰しているという水霊が居ると伝わっている「水霊の洞窟」に3日間閉じこもり断食をし水を浴びながら不眠不休で祈り続ける物だ。


だが、今のロゼの体調を考え、場所を王宮内の礼拝堂に変えて、食べ物はとらせないがポーションを飲みながら3日間一歩も外に出ないで祈る。


そこ迄緩和した物だった。


流石にこれには教皇や各国の王は呆れていたが...余りに必死に王自らが言う物だから「行ってくれれば良い」と許可を得たものだった。


これが国としても世界としても許せるギリギリのラインであった。



その事をフリードがロゼに話すと...


「そんな一人で3日間なんて居られません、今だって見えないだけで私は死霊に囲まれているのです...うぷっおあげええええっ」



無理もない、あの不味いポーションを暇さえあれば飲んでいる、お腹がポーションで一杯だから食事も真面にとれない...吐くのは当たり前だ。


最近俺は、「吐いているロゼ」「怯えているロゼ」「泣いているロゼ」「眠っているロゼ」しか見ていない。


あの太陽の様な笑顔もなりを潜めていて、今の俺には愛よりも同情の気持ちの方が強い。


「見ていられない」その気持ちがどうしてもこみあげてくる。



俺はイライザ叔母様を女々しいと馬鹿にした事があったが、今のロゼを見ていれば、聖女の世界は想像を絶する物なのは解る。



トイレからお風呂まで「腐った人間」に覗かれ続けていたら、ノイローゼにもなるだろう。


それが死霊で絶対に手を出してこない...そう解っていても恐怖しか無いだろう。


俺がそんな世界で暮らせと言われれば、頭が可笑しくなるかも知れない。


そんな中で暮らすロゼに俺は何もしてあげられない...


それが凄く口惜しい。



「済まない、これはどうする事も出来ないんだ...扉の外に俺はずっと居るからな頑張ってくれ!」



「そんな...そんな...ああああっうわああああああんんんんんんん」


泣いているロゼに背を向けて俺は立ち去るしか無かった。


助けられるなら助けてやりたい、代われる物なら代わってやりたい。


だが、俺には何もしてあげることが出来ないのだから...



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