第6話 マリアの治療院...スタート
マリアは帝国に着くと元からの予定通り治療院を始めた。
マリアは「元聖女」だから教会にも冒険者ギルドにも顔が利く。
教会にも冒険者ギルドにも届を出すと「元聖女」として名の知れていたマリアにはすんなりと許可が出た。
通常は「治療院」みたいな仕事や施設は世襲制でおいそれと新しい施設は作れない。
しかも、教会と冒険者ギルド、更に言うなら国も絡んでくるので、まず申請が通る事は少なく、万が一通るにしても1年位は掛る。
マリアは診療所を始めるにあたって決めていた事がる。
それは、「代金は金貨1枚」にする事、それ以下では一切仕事を受けないし、またそれ以上は絶対に貰わない事。
これは、他の治療院の邪魔をしない為の処置だ。
治療のエキスパートである「聖女」だったマリアが安く仕事を受けたら、他の治療院に通う者は居なくなる。
だからこそ、大金の金貨1枚にした。
金貨1枚は大変な金額ではあるが、その気になれば平民でも用意可能な金額だ。
だが、この金貨1枚には凄く価値がある!
マリアの治療院では基本「生きてさえすれば大体の者は助かる」
そんな奇跡の治療がたった金貨1枚で受けられるのだから...
冒険者ミリダは、その容姿の事で悩んでいた。
A級にまで成り上がり財産も地位もあるが...度重なる戦いで顔を半分焼かれて片目は見えない。
更に左手も無い。
本来なら、英雄として尊敬されて引くてあまたの筈が...辛い人生を送っていた。
「うん? 新しい治療院か! 後遺症の痛みが取れれば良いんだが...金貨1枚か、余程腕に自信があるのだな!」
金貨1枚は大金だが、自分にとっては対した金額では無い。
もし、後遺症が無くなればそれだけでめっけもんだ。
「治療を頼みたいのだが!」
中には若い女が一人いるだけだった。
本当に大丈夫なのかこの治療院は..
普通こう言った治療院は妙齢の女性や年配の男性が行っている場合が多い。
「マリアの治療院へようこそ! お代は金貨1枚になりますが大丈夫ですか?」
「ああっこの傷が楽になるなら安い物だ」
「では前金で金貨1枚頂きます! この代金は改善されなければお返しします」
「ああっ 頼む!」
「ではパーフェクトヒール!」
今、パーフェクトヒールって言ったのか?
聖女のみが唱えられたという伝説の回復魔法。
四肢欠損どころか...死んでなければほぼ助かるという究極の回復呪文...まさかね!
「いま、パーフェクトヒールって言った?」
「はい!」
「そんな馬鹿な...あれっ左手が生えているぞ!」
治療師が鏡を差し出してきたから見たら...顔が治っている、というか...両目で見える。
嘘だ...金貨を何枚積もうが治らないと言われたのに。
しかもはしたなくもついズボンや上着をめくったら小さな傷も治っていた。
「素晴らしい...これで金貨1枚は申し訳ない20枚払わせて貰うよ」
「いいえ、これは仕事ですから金貨1枚で良いのです! 恩を感じてくれるなら私が困った時に助けて下さい!」
「この恩は一生忘れないわ! 冒険者仲間に片端になった者や他の治療院では治らなかった者が沢山居る...紹介させて貰うね!」
「有難うございます」
「いや、こっちの方こそ有難う!」
「伯爵さま、最近冒険者ギルドの横に新しい治療院が出来たそうです」
「左様か? どんな治療院かは知らぬが...孫を治せる訳は無い...」
「帝国のどの治療院でも教会でも治せない、そう言われたのは知っています! ですがその治療院は王国から来た者が行っているそうです」
「ならば、一縷の望みの為に行ってみるか?」
ギルト伯爵は実の息子夫婦を戦争で無くした為に孫のリリアを目の中に入れても痛くない、その位可愛がっていた。
だが、そのリリアが原因不明の病に掛かり、愛らしい顔が腫れあがっていった。
そして、その病の原因は...誰にも解らない...
伯爵は「もし治せる者が居たら金貨100枚支払う」「孫の婚約者候補にしても良い」どんどん報奨を上げても誰も治せなかった。
だから期待はしてなかった。
マリア治療院! よくもまぁ付けた物だ...王国の聖女の名前では無いか!
「ああっ孫の治療を頼みたいのだが!」
「はい、治療費は金貨1枚、前金になりますが宜しいでしょうか?」
何処かで見た気がするが...何かの間違いだろう!
「ああっそんな端金で良いなら直ぐに払おう!」
金貨1枚、確かに大金じゃが、平民ですら払える金額じゃ..大した治療は見込めないだろう!
「成程、これは、呪いが元で病が発症していますね...それじゃやりますか! カースイレイサー(呪いの消去呪文)!」
そんな馬鹿な...呪いの消去等、本来は教会で数人掛かりで何日も掛けてやるものだ。
しかも、原因を一発で見抜いたのか...
「呪いを解呪したのか...」
「はい! 今度は体の治療です...パーフェクトヒール!」
パーフェクトヒールじゃと...秘薬エリクサイヤーに匹敵する最強の治療呪文だ。
だが、リリアの顔は腫れが一瞬で引き、顔色が良くなり赤みをさしてきた。
「お爺ちゃん...どうしたの?」
「孫が治った...」
「これで呪いも病も治ったわ、寝たきりだったから体力不足だけど、これは美味しい物でも食べて運動するしかないわね」
「あの、貴方は...やはり聖女マリア様...」
「元ね! 今は只のマリアよ!」
聖女の奇跡の治療が帝都で受けられるなんて思っても無かった。
「金貨100枚払おう...他にも欲しい物があったら言ってくれ」
「ここはマリアの治療院、金貨1枚それしか頂けません! もし恩を感じてくれるなら、私が困る事にあったら助けてくれれば良いですよ!」
「それじゃ、余りにもすまなすぎる!」
「そうだ、だったらリリアちゃんの友達にして下さい...よく考えたら私、友達が一人も居なかったわ」
「そんな物で良いのか?」
「はい」
「うん、私で良かったら友達にして下さい」
「ありがとう、リリアちゃん!」
聖女の貴重な治療が金貨1枚で行って貰える。
これは凄い事になる、伯爵は思った。
その思いは当たり...
これを機に「どんな怪我でも治せる」マリア治療院は帝都で有名になっていった。
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