第5話 聖女の目に映るもの!
その日の夜から、本当の悲劇が始まった。
ロゼがポーションを飲みながら寝ていると声が聞こえだした。
地の底から聞こえて来るような、悲しげで、それでいて不気味な声。
こんなに気持ち悪い声をロゼは聞いた事は無い。
聖女様...救いください、私を助けて...
聖女様...助けて下さい...苦しいのです...この痛みから救ってください。
聖女様、聖女様...聖女さまーーーーっ
お救い下さい..助けて...
ロゼが目を開けると其処には...体が腐った人間の様な者が沢山居た。
体が腐り果てた者が多く、軽傷な者でも頭部に大きな損傷があった。
「フリードーーーっ様! フリード様、助けて!」
体を動かす事も出来ないロゼは精一杯の大声で叫んだ。
ただ事で無いロゼの声に、フリードが目を覚ましてロゼを見ると青いオーブの様な物がロゼを取り囲んでいる。
「ロゼ、大丈夫かーーーっ!」
「大丈夫ではありません! 化け物に、化け物に取り囲まれているんです...早く助けて下さい!」
化け物とロゼが叫んでいるが、フリードには只の青いオーブにしか見えない、最もオーブに囲まれているじたい尋常ではない。
だが、こんな得体の知れない現象は自分は見たことが無い、更に只ならぬロゼの様子にただ事ではないと考えたフリードは、怒られるのを承知で王妃の寝室をのドアを叩いた。
「こんな夜中に...まぁ想像はついていますが...」
「ロゼが、ロゼが青いオーブに取り囲まれているんです!」
「ああっ! それは死者の魂ですね...イライザも良く怖がっていましたね!」
「死者の魂ですか?」
「私の妹、貴方にとっては叔母にあたるイライザを覚えているわね?」
「はい、覚えております!」
「良く怯えたり、青い顔をしていたでしょう? それは「聖女」である為、死者の魂が常にまとわりついてくるのよ...仕方ない事なのです」
死者の魂に纏わりつかれる...仕方ないなんて言ってられない。
少なくともロゼはそれに恐怖を感じ泣き叫んでいる。
「それで、これからどうすれば良いのでしょうか?」
「マリアの場合は小さい頃から私が見出し、聖女になるまでに慣れさせたのよ...実際にイライザやシスター同席で死霊を何回も見せたし、死体に慣れるように霊安室に閉じ込めた事もありました」
「では、慣れていないロゼはどうすれば良いのですか?」
「慣れるしかありませんね...シスターや司祭に頼んでもその場は治まりますが、どうせ暫くしたらまた違う死霊が助けを求めて来ますからね」
「慣れろってそんな...」
ロゼにとっては諦めろ...そういう事じゃないか?
「貴方が手でも握って寄り添うしかないわ...死霊はそう悪い者じゃない、浮かばれない魂なのだから「聖女」なら助けるのが当たり前なのよ! ロゼが未熟だから救えないだけ...本当に気の毒なのは死霊の方だわ! 本来の聖女なら「対話をしたり」「呪文を使って」天に返してあげるのに、それすら出来ないロゼが悪いのよ...全部悪いのは貴方達よ」
「そんな...まさかこんな事になるなんて!」
「貴方達が嘘をついてマリアを陥れた結果、こうなったそれだけよ?」
「陥れて等いません」
「もう嘘はおやめなさい! マリア程の聖女になれば、姿こそ見せませんが死霊は常に纏わりつきます、それらの対処をして結界の維持に魔力を使っていたマリアには、貴方達のような暇な時間はありません! 更に、マリアは教会にも顔を出して色々な魔法を勉強していましたから暇な時間はありません」
「そんな事はありません!」
「いい加減にしなさい! 大体マリアがロゼが嫌いなら一言「国外追放して下さい」で終わります! 更にマリアには取り巻きは1人もいません! 傍に居たのは「聖女を守る護衛」です、全部私や陛下の直轄です...何か言い分はありますか?」
「ありません...ですが、ヒントを下さい! マリアはどうやって死霊と向き合っていたのですか?」
「最初は教会で「ディスカッションアンデット (霊と会話する)」呪文を身に着けて対話していたらしいですが、途中からめんどくさくなり「ターンアンデット」を唱えまくっていましたね...言って置きますが聖女が唱える「ターンアンデット」は死霊にとっては気持ちが良いので「ありがとう」とお礼を言って召されるそうです」
「それでは、ロゼには出来ないでは無いですか...」
「そうね、常に魔力が枯渇状態のロゼには出来ないわ! だけど勘違いして被害者面はお辞めなさい! 死んで癒しを求めてくる死者の魂に救済も与えてくれない聖女...最低だわ! 私達には見えないけど王宮に居たという事はこの国の関係者、もしかしたら王族に連なる者も居るかも知れないのに...彼らの救済は次の聖女を待たなければならない! しかも次の聖女にはその分の負担が掛かる、そこ迄の事を貴方達はしたのよ」
「私は愛するロゼと結ばれたかっただけです...」
「そんな自由は王族には無いわ! 貴方が着ている服どの位するか解る? 平民が5年間死ぬ気で働いても買えないわ! そんな物を私達は普通に着られるのよ? 王族だからね! 王族である以上は「自分より国」当たり前の事です! それをするから王族は贅沢が出来る! 少しは学びなさい!」
「解りました...」
「これ以上言っても仕方ありませんね! 後はしっかりと償い生きていきなさい! それだけです!」
結局、フリードは青いオーブの飛ぶ部屋に戻っていった。
喚き散らすロゼの手を握りながら恐怖に耐える...それしか方法は無いのだから。
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