第3話 聖女地獄 始まる前


「ロゼ様、こちらにお越しください」


「解りました、参ります」


お城付きの侍女に部屋に案内された。


「それではロゼ様、こちらでお召し物をお脱ぎくださいませ」


「いきなり、何を言うのですか!...無礼ですよ!私は、王太子フリード様の許嫁です」


「これは王妃マドリーヌ様の命で行っております、勿論国王様も知っての事です、ロゼ様の事は勿論存じておりますが従って頂きます...お召し物をお脱ぎください」


「人前で肌を晒すなど私には出来ません」


「私を始め、此処には女性しかおりません、お気になさらず御脱ぎ下さい、脱いで頂けないのであれば無理やり脱いで頂く事になります。」


「解りました、そういう事であれば仕方ありません」


ロゼは恨めし気に侍女を睨みながら下着姿になった。


「さぁ脱ぎましたわ、これで宜しいのですわね」


「下着も御脱ぎ下さい」


「私はフリード様の許嫁です! フリード様にも晒して無い肌を何故晒さなくてはならないのです」


「これは王妃様、しいては国王様の命でございます、脱いで頂けなければ強制的に行わせて頂きます」


「解りました、脱げば宜しいんですね」


「そうして頂ければこちらも助かります」


ロゼは涙ぐみながら全ての服を脱いだ。


人前で裸になるなど、貴族として育ったロゼにとっては初めての経験だ。


「脱ぎましたわ...これで満足かしら」


「それでは、皆さんロゼ様を押さえつけて下さい」


「ちょっと待って、何をするの? 私を裸にした挙句さらし者にする気ですか」


「いえ違います、これを身に着けて頂きます」


「それは!嫌よ嫌、そんな禍々しい物付けたく無いわ、何でそんな物付けるのよ」


「これは貞操帯、ロゼ様の貞操を守るために付ける物でございます」


「嫌ーーーーーっ」



その日の内にロゼには貞操帯が装着された。







泣いていても仕方ない、私はフリード様の婚約者、未来の王妃です、なんでこの様な扱いを受けたのか聞く必要があります。



「これはどういう事なのでしょうか?」


出来るだけ、何事もない様に聞きます、決してうろたえてはなりません。


「ロゼ様は聖女様なのですよ? 死ぬまで処女でいなくてはなりませぬ!当たり前の事ではないですか?」



えっ、何で...そんな話は誰からも聞いてません、侍女が嘘をつく必要は有りませんから真実なのでしょう。


だけど、そんな理不尽な話、認める訳にはいかないわ。



「そんな話は聞いていません!」


侍女に言ったってどうしようも無い、そんなのは解っております、ですが聞かずにはおれません。



「女神ノートリア様は処女神ですので、その御使いである聖女様は永遠に清らかな体でなくてはなりません」



この侍女は一体何を言っているのでしょうか? フリード様は王太子です、未来の王であり、婚約者の私は未来の王妃です。


二人の間に子供が作れない、そんな訳はありません! そんな事をしたら王家が途絶えてしまいます。



「それは可笑しいです...それでは私はフリード様のお子を作れません」


それは困る筈です、私とフリード様の子が未来の王太子なのですから。


「その必要はありません、王家の跡取りは他の王子が作ります」


話しの意味が解りません...フリード様は王太子です、それが子作り出来無いなんて可笑しすぎます。


「可笑しな事を言わないで下さい、フリード様は王太子なのですよ!」



そうよ、これは何かの間違いよ!


「私ごときが申して良いか解りませんが、聖女様と婚約したのですから、フリード様は恐らくは廃太子になり、只の王子になると思います!」


嘘でしょう、そんな訳無いわ...そんな話聞いた事ありません。


「そんな事って無いわ!そんな、姉も同じような話しだったの?」


そうよ、マリアが婚約者だった時にそんな話を聞いた事ないわ。


「いえ、マリア様の男嫌いは有名でしたからね...婚姻までは行わない予定でした、速いか遅いかの差はありますがマリア様もいずれは同じ様になる筈でした、ですがロゼ様は普通に恋愛をされていた方なので早目にするように言われております」


そんな、そんなのって無い..


「嘘でしょう...」


「嘘ではございません! それにこれは貴方の命を守る為でもあるのです」


こんな物が何で私の命を守る事になるのよ、可笑しいわ。



「命ってなによ!」


「ロゼ様がもし、性交をしたら、聖女の力を失います!その様な場合は死刑と言う事もあり得るのです!」


冗談よね、フリード様と愛し合ったら、死刑と言う事なの...


「嘘よね...冗談よね..」


「冗談ではございません!」


此処には私の味方は居ません、フリード様に助けを求めなくてはいけません。


「フリード様、皆がロゼを虐めるのです、助けて下さい!」



フリード様ならきっと何とかしてくれます。



「私も今、王太子を追われるという事を聞いた、一緒に話を聞きに行こう!」


きっと何かの間違いです、あれっですが、フリード様も同じ事を?





二人して王や王妃様がいる部屋を訪れました。


フリード様は、かなり慌てているようで、ノックもせずにドアを開けていました。



「父上、母上、話は聞きましたがあんまりでは無いですか?」


「無礼者ですよ!フリード!王太子でも無くなった貴方が王や私に意見ですか? まぁ今日は見逃しましょう」


「今日はこれで良いが次からは気をつけろ...まぁ親子ではあるから今日は良い、なんじゃ!」



こんな状況で聞く事等一つしかありません。


勿論、フリード様はストレートにその事を聞きました。



「何故私が王太子から王子にならないといけないのでしょうか?」



「聖女と結婚したのだから仕方ない事だと思いますよ? 聖女は清らかな体じゃないといけないのですからね!」



さっき侍女が言った事となんら変わりません。



「そんな...可笑しいじゃないですか! マリアと婚約者だった時にはそんな事言われませんでした!」


そうなのです、私が気になったのはそこです、姉のマリアの時はそんな話はありませんでした。


「はっきり言いましょう! 貴方は「聖女」になる条件でマリアにあげた恩賞に過ぎなかったのです! 勿論、遅かれ早かれ同じには成りました」



此処からは私にとってもフリード様にとっても聞くに堪えない内容でした。



「マリアの恩賞?」


「はい、聖女の使命はこの世の地獄です! 前の聖女である私の妹の事は覚えてますか?」


「イライザ叔母様の事なら覚えています...凄く老け込んで、更に何時も何者かに怯えていました」



「そうです...その理由は「聖女」だったからです! 聖女は常に王国に結界を張り続ける為に魔力放出状態にあります、有事の際には勇者と共に戦う義務が発生します、そして、治療困難な病の治療もしなくてはなりません...他にも、これは恐らくこれから先に体験する事でしょう」



「そんな...そんな話なら私は聖女になんてなりませんでした」


私が成りたかったのは、フリード様の妻であって「聖女」ではありません。


そんな過酷な話なら...引き受けたりしませんでしたよ。



「もう引き継いだ後ですから遅いのです...マリアはイライザを傍に見た私が、小さい頃にその才能を見出し聖女の責務に耐えられる様に鍛え上げた女の子だったのよ? そして今迄、弱音も吐かずに懸命に耐えてきました、正に聖女の鏡でした! 聖女の才能も無く何の訓練もした事も無いロゼや貴方に耐えられるか凄く心配だわ!」


そんな、そんなに過酷なのですか。



「母上、今からでも「聖女」の地位だけマリアに返す訳にいかないでしょうか?」



そうです、「聖女」だけ姉のマリアに返せば良いだけです。


それで全てが上手くいきます、それが良いです。



「マリアが聖女になる恩賞が貴方だったのよ! 下賜した者を取り上げた上に戻れなんて言える訳は無いわ! そんな恥知らずな事は言えないわね...まぁ貴方達が上手くいっていたからと言って放置していた責任は私にもある...だからロゼとの婚姻とロゼが聖女になる事は認めました...後は頑張りなさいとしか言えないわ」



「儂はマリアの頑張りを知っておる...既に聖女はロゼに移った、マリアが生きていた恐ろしい世界を引き継いだのだ頑張れとしか言えぬ! 生涯、性交も出来ず、子も産めない...そして地獄の様な生活が始まるのじゃ、王としては今後も手助けはするつもりじゃ...だが、死ぬ事だけは許さんからそのつもりでな」



「もう賽は投げられたのです...手助けはしますから頑張りなさい! 恐らく、ロゼは3日後から今迄の「マリアの世界」で生きる事になります...心しなさい」



マリアの世界って何でしょう?


どんな地獄が待っているのでしょうか?


横を見るとフリード様も青ざめています。


本当に心配で仕方ありませんが...もう引き返す事は無理なのだとそれだけは解りました。



二人は、まだ始まる前から恐怖を感じていた。






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