深夜の散歩をしていたら役立たずと言われて追放されちゃったけど、戻ってきてくれと言われても、もう遅い【春】【旅】【うさぎ】

kanegon

さぁ、始まるざますよ

「お前の特技は深夜の散歩って言うけど、それって何の役に立つの」

 王子は私を見下ろした。

 王子には三人のお供がいる。

 一人目は体が大きい男だ。特技は力仕事である。

 二人目は、手先が器用な男で、特技は料理。

 そして三人目がこの私。特技は深夜の散歩だ。

 三人とも得意分野はそれぞれ違うけど、力を合わせて王子のために粉骨砕身仕えている。

「前々からずっと疑問ではあったんだよね。深夜の散歩を特技とは言わんだろ」

「月がきれいなのを発見したり、満天の星空が美しいのに気づいたりします。あと、色々な人間模様を見ることもあります」

「そういうの不要なんで。力仕事とか料理みたいに役立つことは無いの」

 王子の無理解が悲しく、私は涙を流した。

「とりあえずはお前は役立たず認定して追放な」

 理不尽な理由で私は追放されてしまった。

 仕えていた王子に裏切られた悲しみはあるが、良い意味で自由の身になったのだ。

 旅に出よう。

 ここではないどこかへ行きたい。どんな土地へ行っても、私ならば深夜の散歩を楽しめるはずだ。

 冷たい雪を踏みしめて、コートの前を重ね合わせて、私は南へと向かった。


***


 季節は過ぎて春になった。

 ここ南国では既に初夏の兆しが見える。太陽が眩しい。

 手紙が届いた。王子からだ。

 私を追放した後、王子の屋敷の近辺で夜な夜な変な奴が出没するようになった。

 キモいオジサンがバニーガール衣装を着て夜中に闊歩しているという。取り締まるはずの警察官が、赤い上着を羽織って下半身露出で「熊の○ーさんのコスプレをして何が悪い」と言っているらしい。

 王子はようやく気づいた。私の深夜の散歩によって、テリトリーを主張し、変な奴が近づくのを防いでいたのだ。

 手紙の最後には、お前がいなくて困っている。戻ってきてくれ。と書いてあった。

「もう遅いって」

 私は手紙をビリビリに破り捨てた。紙片は南風に乗って北へ向かって飛んで行った。

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