第3話 悪役貴族、その潜在能力に驚愕される。


 数日後、頼んでた家庭教師が屋敷にやってきた。

 銀髪に眼鏡をかけた、斬り裂くような冷たい目の女性。


「――シルヴィア・マリウスです、どうぞよろしくお願いします」


 そう、俺はこの名前を知っている。


 シルヴィア・マリウス……アスフロのサブヒロインの1人だ。


 本編の舞台である学園の首席卒業生で、特に優秀な生徒として名が残っている。


 主にNPCの会話で『稀代の大魔導師』『銀の氷姫』など、その実力の高さが揶揄されている。


 メインヒロインの1人も、彼女を目標に大魔導師を目指してる設定だったけど、その話は追い追い……。

 

 このシルヴィア、あくまでDLCのキャラなので、本編とは特に関わりがない。  


 アスタの死亡フラグは基本的にメインヒロインたちとの絡みにあるので、シルヴィアと絡んでも破滅フラグに繋がらないのだ。

 

 よって、安心して関わりを持てる。 

 

 

 にしても……。

 

 白を基調とした衣服、水晶付きの杖を持つ女魔導師といった出で立ち。  



 そして何より、


 胸がデカい……! 


 胸が……デカい……!


 大事なことなんで2回言いました。 


 暴力的だ、メイドのエミリアと良い勝負じゃないか。


 服が虐待を受けているぞ。

 シルヴィアを選んだのには他に理由があるが、とりあえず実物を見たかったのは間違いなかった。


「クロフォード公爵家次期当主、アスタ・クロフォードです。シルヴィア殿、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!」


 邪な考えをしながら挨拶する俺。

 結局は男の子なんです。許して下さい。


「は、はい、こちらこそ」


 シルヴィアは少し辿々しく挨拶を返した。

 

「どうかしましたか?」


「いえ、その、何でもありません」


 あー、やっぱりクロフォード家の悪評を耳にしてたりするのかな?

 原典のアスタなら、ニヤつきながら胸にダイブをかましててもおかしくない。 


 心配ご無用、もうそんなクズじゃありませんので。


「はい、全ては魔法をマスターするためです……!」


 俺は言った。

 こちらの要望と、達成したい目標を正直に伝える。

 その方が、教えるべきことも明確になるだろう。


「魔法をマスター……ですか?」


「はい、今の自分に必要なことだと考えた結果です」


 そうしないと、この先の破滅フラグを回避できないかなね。


「なるほど……私は若輩者ですが、魔法に関して出来うる限りのことはさせていただきます」


 シルヴィアは鋭い目で俺を見ながら言った。


「先ずは【魔力合わせ】をしましょう。互いの手を合わせ、魔力を高めることでアスタ様の保有魔力を測ります」


 でた、魔力合わせ。

 このアスフロにおける、個人の魔力を測る方法だ。


 幼い主人公とヒロインが魔力合わせするムービーは何かと印象に残るんだよなぁ。

 これで主人公に特殊な力があることも判明するし。


 メイドのエミリアも屋敷の兵士も、アスタの保有魔力のことも知らなかったみたいだし、今回で判明するわけか。


 俺とシルヴィアは手のひらを合わせる。


「アスタ様、そのまま魔力を手から流してみて下さい」


「分かりました」


「不慣れでも問題ありません、私には氷の属性魔力・・・・が備わっています。どれだけの魔力でも、私が障壁の役割をするので大丈夫です」


 そう、彼女にはアスタと同じく【属性魔力】持ちだ。

 属性魔力を学ぶなら、同じ属性魔力を持った人間にお願いしたい。


 言われるがまま、俺は魔力を流してみた。


 すると、人肌の温もりからひんやりとしたものを感じた。

  

 これがシルヴィアの魔力なんだ。


 氷の冷たさと頑強さを兼ね備えた、全てを受け止めてくれそうな魔力……。


「アスタ様、続いては持ちうる限りの魔力を流して下さい。これで潜在魔力を測ります」


「はい!」


 この魔力合わせ、魔力量だけでなく、自分にどんな魔法適性があるのかも分かるのだ。

 

 俺は、名一杯の魔力を流した。


 突如、合わせた手から、眩い光がバチバチと迸る!


「……こ、これは、何という魔力量、そして、この光は!?」


 シルヴィアは俺の魔力を押さえ込むように手を強く握る。

 そして、光を押さえ込むと彼女は結論を告げる。


「アスタ様、おめでとうございます。貴方は……属性魔力を持っています!」


 知ってます、とは言わない。


「――それも雷属性、私の知っている限りでは2人目です……!」


 そう、

 雷の属性魔力を持っているキャラ自体は他にいるのだ。

 というか、俺みたいなデータ上のみ実装されてるキャラと違って、そっちの方が実際に本編で活躍してるキャラだからなぁ……。


 何だか素直には喜べない、結局は二番煎じだしな。


「どうされましたか?」


 おっとっと、そうだった。

 ここで薄い反応だと変に思われるだろう。


 見上げていた顔を下げ、目を見開いた。


「俺が、属性魔力持ち、し、知らなかったなぁ……やったぁ!」


「アスタ様、これは素晴らしいことです。属性魔力というのは、選ばれし者のみに与えられし祝福です。おめでとうございます」


 シルヴィアは笑顔で言ってくれた。

 よしよし、怪しまれてないな。


「アスタ様が属性魔力持ちであれば、雷魔法のイメージを直感的に掴めるはずです。通常の魔力では、波長を自力で掴むしかありませんので」


 シルヴィアは右手をかざすと、その腕が段々と冷気を纏う。

 やがて、パチパチと音を立て氷漬けになった。


「万物を凍てつかせる冷気、北国の永久凍土……氷の属性魔力を持つ私がそうでした」


 うぉ……シルヴィアの半径1メートルが、まるで雪原のような寒さになった。

 右手が氷漬けになったかと思えば、指も自由に動かせてる。


 これが、シルヴィアの属性魔力か。


「す、すごい」


 思わず口に出ていた。


「アスタ様にも出来るようになります。そのために私がいるのですから」


 シルヴィアはくいっと眼鏡を上げた。

 か、カッコいい〜!

 流石は作中最強クラスのキャラ。

 めっちゃ頼もしい、思い切って呼んでよかった!


「俺、頑張ってシルヴィアさんのようになります!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

ゲームの悪役貴族に転生した俺、破滅フラグを回避すべく自分磨きをしてたら、いつの間にか【雷帝】と呼ばれてました。 針谷慶太 @hariya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ