第2話 メイド、悪役貴族の変わりように驚く。



「――あ、あああアスタおぼっちゃまが魔法の勉強ですかぁ!?」


 自室にて、看病にやってきた先ほどの巨乳メイドが、数秒前の俺のセリフに驚く。


 そりゃそうだ、今まで怠惰の日々を送ってたクソガキがこんなこと言うんだ。


「この世を生きていく上で、自らの研鑽は当然のことだ」


「ふええ……このエミリア驚きです、まさかぼっちゃまからそんなお言葉を聞くなんて……」


 メイドはお盆で口を隠し、信じらないといった表情を浮かべた。



 この娘は、クロフォード家のメイドのエミリア。

 普段、父が仕事で屋敷を開けていることもあり、何かとアスタの世話を焼いてくれている。


 言わば親代わり、年齢差的には姉だが。


 そのワガママボディにドジっ子属性を内蔵した男性の心を鷲掴みにするキャラ設定で、アスフロのキャラランキングでもメインヒロインを差し置いて1位を獲得するほどだ。


 なまじ人気があるせいで「何でアスタみたいなクズに仕えてるんだよ!」と、エミリアファンが、そのままアスタアンチと化すのが様式美。


「分かりました、一流の魔導師を家庭教師としてお迎えします!」


「ありがとう、助かるよ」


「……!?」


「え、どうしたの?」


「ぼっちゃまが……お礼を言うだなんて」


 エミリアは更に目を丸くした。

 ヤバい、めちゃくちゃ怪しまれてる。


「俺は今日まで周りに甘えていた、頭を打ったあの時、生まれ変わったんだよ」


 嘘はついてない。


「生まれ変わる……ですか?」


「そうだ、これからの俺は今までと違うと思え」


「か、かしこまりました! このエミリア、肝に銘じます!」

 

 ほんと、良い娘だなぁ……。

 何でこの屋敷で働いてるんだろ。


 エミリアは本編でも一応、サブイベントの依頼主として登場する。


 たしか、病気の妹のために高価なポーションが必要で、それを渡すイベントだったような。


 ……あ、思い出した。


 そもそもエミリアがクロフォード家で働いているのも、家族のためのポーションを買うためだったな。


 公爵家のメイドなら、給料も期待できる。


 だからアスタの気持ち悪いセクハラにも耐えてきたんだ。


「妹さん、身体の調子はどう?」


「!?!?」


 エミリアは動揺する。

 そうだった、妹が病気なのは秘密にしてるんだっけ。


「あーいや、何でもない、ただあれだ。エミリアは日頃クロフォード家に尽くしているからな。怪我や病気になってもらったら困るんだよ。後でポーション渡すからそのつもりで」


「え、その!?」


「いらない? なら実家にでも送ってあげてよ。怪我でも重い病気・・・・でも治せる高級品だから、備えあれば憂いなしだよ」


 アスタの罪滅ぼしぐらいはしておくか。

 俺の金って訳じゃないけど、これくらいなら良いだろ。


「ありがとうございます……この御恩は一生忘れません!」


 エミリアは涙を流しながら頭を下げた。

 隠してる体なのに、その返答はどうなんだろう。 

 でも、こういうところがエミリアの魅力なのだ。

 

「あ〜あとさ、家庭教師なんだけどさ、俺に選ばせてくれないか」


「へ、アスタ様がですか?」


「ああ、是非お願いしたい人がいる」


 エミリアはキョトンとする。


 ふっふっふ、実際はもう決めていた。

 属性魔力を持つ俺を育てるのに、うってつけのキャラクターがいるのだ……!

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